月のシズク
mamico



 Wherever you are

たった2行の手紙だったのに、すべてがわかってしまった。
とり交わしてきた何百というメイルよりも、克明に、壮絶なまでに。

コーヒーカップを持ってベランダに出る。
すでにそらんじてしまったその言葉を、声に出して言ってみる。
声といっしょに、猥雑な色をした私の想いが、青い空へ消えてゆく。
立ち位置がわかってしまったのだ。これまでの、そして、これからの。

あんなに言葉をほしがっていたのに、いざそれを受け取ってしまうと
私はいつもその言葉の強烈さにおののく。芯からぐらりと揺れてしまうのだ。
もうそれは、立っていられないほど、激しく、優しく、私を打ちのめす。
いたぶるためでも、なぐさめるためでもなく、わからせるためのそれに。

私は、すでに失ってしまったものを、その形にみあった箱の中にしまう。
そして、それが永遠に 私のものになってしまったことを知る。
触れることも、抱きしめることも、言葉を交わすこともできないけれど、
いつまでも、どこへ行っても、私の中に在り続けるだろう。きっと。

テレビではブッシュが演説し、イラク攻撃開始の宣言をしている。
ついに、戦争が始まってしまった。画面には、夜明け前の空が映っている。

あのひとが見ている空は、どんな色だろうか。
この世のどこかで、生き延びてくれることを祈る。
心から、そう 祈る。

2003年03月20日(木)
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