月のシズク
mamico



 桜、開花宣言

昨夜、終電を逃してしまった妹ちゃんが泊まりに来た。
「すいません」と、ひたすら恐縮する彼女に「いえいえ、夜行性同志だから」
とお風呂をうながす。規則的な生活の中に侵入する不意打ちは、むしろ好きだ。

たっぷり眠った朝、ベランダを開けはなって、ラジオを聴きながら軽めの朝食を摂る。
コーンフレーク、うさちゃんりんご、野菜ジュースにアメリカンコーヒー。
あたたかくなると、シャクシャクのコーンフレークがだんぜん美味しい。
つめたいかたまりが胃へ落下してく感覚に、季節の到来を感じる。

ラジオは、東京地方の桜(ソメイヨシノ)の開花宣言を伝えていた。
研究室に着いて、ふたり、申し合わせたようにベランダから身をのりだす。

「ここでいいじゃん」
眼下にちらほら咲き始めた、うすピンク色の桜を確認して、妹ちゃんはそう言う。
「だよね。お酒ものめるし、煙草もすえるし」
さっき、廊下のホワイトボードに、近くの公園で花見を催す告知が書かれていた。
「ここでいいじゃん」とは、わざわざ宴会盛りの公園まで遠出する必要なんて
ないじゃない、という意味。眼下には、ベランダと平行して桜並木が続いている。

「ここでしちゃおう。夜桜もみよう」
みんなも呼んで、焼き鳥やビールを立ち食いしながら、ひっそり宴を開こう。
「東京タワーもみえるしね」
妹ちゃんのひとことに、決まりだっ、と思った。

私たちのランドマークが見える場所。
この場所から、今年も一年、季節の匂いを迎え入れてゆこう。


2003年03月28日(金)
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