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■ 不法侵入者たち〜4月バカの日
うちの近所には、いくつか隠れた桜の名所がある。 そのひとつ。陸上競技場の土手べりに植えられた古い桜並木。
夜、守衛も警備員も帰った後に、競技場の柵を乗り越えて来てしまった。 これまた「立ち入り禁止」と書かれた芝の土手をのぼって、桜の木の下に ぺたんと座り込む。背後から道路脇の街灯が、桜と芝をまぁるく照らす。 持参した酒とツマミを袋から取り出し、ひっそりと宴を開始する。
さきいかを噛みしだき、冷えた酒をすいすいやっていると、時折ゆるい風が吹き、 桜の枝をさわさわと揺らす。ひとの声からも、街の喧噪からも遠く離れた場所。
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と、そのとき、グラウンドの照明がぱっとつき、競技場を取り囲むように植わった 桜が、白くその輪郭を露わにする。やばい、見つかった!と鼓動が高鳴る。 向こう側の柵が開き、警備員や守衛が制服のまま、どやどや入ってきた。 見ると、手に手に何か持っている。
彼らは、ちょうど対岸にあたる芝の上に敷物をしき、よっこらしょという風情で 腰を下ろす。袋の中から酒を出し、焼き鳥を出し、「じゃぁ、始めっか」と 宴が始まった。立入禁止の芝の上で、こんな夜中に、制服のままで。
私はあっけにとられて彼らを眺める。 ひとりのおじさんが私に気が付き、若い警備員に「お前、ちょっと注意してこい」 と怒鳴る声が聞こえる。すると、若者は「まぁ、いいじゃないっすか。同犯ですよ」 と、腰をあげる様子もない。おじさんも「そうだよなぁ」と紙パック入りの酒をのむ。
そんな状態で、しばらく互いに好き勝手に宴を続ける。 「さ、シゴトに戻るか」とおっさんが云い、みな敷物やら、ビールの缶やらを片付ける。 そして、入ってきた柵から戻ってゆく。ほどなくして、競技場の照明が消えた。
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私はひとり、暗い芝の上に取り残され、頭上の白い桜をみつめる。 警備室には、相変わらずオレンジ色の灯りがついている。
私は、照明のない競技場の芝の上で、夜中にこっそり制服のままで花見をする 大人たちを想像する。「みんなもここで呑めばいいのに」と思いながら。 立ち上がり、ジーンズをぱんぱんとはたき、「立入禁止」と書かれた柵を 乗り越えて外へ出る。すこし奇妙な「4月バカ」の夜のお話。
2003年04月01日(火)
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