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■ プレゼント攻撃の逆襲
「ルミちゃん、これっ、これがいいのよ」
公園に面した喫茶店のカウンター席で本を読んでいると、隣からおばちゃんの 威勢のよい声が飛んできた。これは厄介なこった、と荷物をわさわさと、移動 させ(膝の上で寝ていた猫は、その場に置き去りにした)彼女たちから離れた 席へ避難する。眼もくらむような、紫色のサマーセーターを着た、ルミちゃんと 呼ばれたおばさんは、そんな私を横目で確認する。
「これねぇ、ルミちゃんのために持ってきたの。いいでしょー、萩焼」 「いいわよ、マサヨちゃん。この間もらったのも、まだ使えるんだし」 ルミちゃんと呼ばれたおばさんは、シガレットケースから煙草を取り出す。
「それからねぇ、これ。このスポンジ。何でも落ちるから、ルミちゃん、使って」 マサヨおばちゃんは、次から次へと袋からルミちゃんへの贈り物を取り出す。 ルミちゃんは、ほんの申し訳程度にそれを手に取り、カウンターへ戻す。
そんなふたりのやり取りを、聞きながら(おばさんの声は無遠慮に耳に入ってくる) 私はルミちゃんとマサヨちゃんの関係をあれこれ想像する。無二の友なのか、 幼なじみなのか、単なるサークル仲間なのか、それぞれどんな家庭を持っているのか。
隣の黒椅子で寝ていた猫が、迷惑そうに片目を開き、椅子の上でぐんと伸びをして ストンと降り、そのまま店の外へ消えていった。ルミちゃんは、猫の後ろ姿を横目 で追う。関心も無関心も払わない視線は、ふらふらと宙をさまよい、私の視線と ぶち当たる。私はどきっ、として、慌てて視線をそらそうとした。
「アナタ、これ、いる?」 ルミちゃんは、煙草を挟んだ左手で、萩焼の茶碗を乱暴に掴み、私の方へ差し出す。 マサヨちゃんが、信じられない、という顔でルミちゃんを見ている。
「いえ、結構です」 私はきっと怯えた眼をしていただろう。ルミちゃんは、フッ、と口元を弛めて わらった。彼女の吐き出した息には、マサヨちゃんへの嫌悪が混じっていた。 少なくとも、私にはそう感じられた。
それからすぐ、私はカウンターの上を片付けて、店を出た。 私は背中に、ルミちゃんの、関心も無関心も含まれていない視線を感じていた。 店の外は、湿気を含んだぬるい風が吹いていて、公園の緑ばかりがまぶしかった。
2003年05月13日(火)
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