-殻-

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2004年07月25日(日) 着地

目が覚める。

あれ、ここはどこだっけな。
枕が違う。布団の感触も。
匂いがいつもと違うし、朝陽の向きも違う気がする。

目を開ける。

見慣れない部屋。
ああ、思い出した。ここは、島だ。
日常ではない、海の向こうの、小さな島の旅館だった。

いつの間に眠ってしまったのか、よく覚えていなかった。

他のみんなは、まだぐっすり眠っている。
時折、鼾が聞こえたりして、なんだかくすぐったい感覚。
どんなに仲のいい友人でも、ここまで無防備な寝顔を見ることなんて、
そうそうあることじゃないからね。
しかも7人まとめて。

部屋は一室しか借りていないから、あの子も野郎どもに混じって雑魚寝している。
前にも見たことはあるけど、本当に死んだように眠るんだな。
息をしてる感じが全くしない。
ちょっと怖くなったりする。

ずいぶん、髪が伸びたな。

などと思ったりする。

そのうち、また僕もうとうとと寝入ってしまった。

****

「朝ごはんだよ!!!」

あ、はいっ!!寝てませんよ。起きてますとも。

と言いたいところだが、女将さんに起こされるまで僕らは誰一人目を覚まさなかった。
気が付いたら、もう8時半だった。
八割方閉じたまんまの目で、僕らは食堂へ降りた。

昨日はしゃぎすぎてすっかり燃え尽きた僕らは、
それでも朝ごはんをぺろりと平らげた。
顔を洗って、部屋でぼーっとテレビを見ている。
傍から見れば異様な風景だろうが、僕らは何とも思っていなかった。

「さ、行こうかあ。」

誰ともなく言い出すと、荷物を担いで旅館を出た。

****

この島は本当に小さい。
ふらふらと歩いていると、いつの間にか島の反対側にきている。
昨日さんざんビールを飲んで陽に焼けたビーチの、ちょうど逆側だ。

近くの店で、全員がかき氷を食べた。
何となく暗黙の了解で、みんながみんな違うシロップを頼む。
イチゴミルク、メロン、抹茶、コーラ、ブルーハワイ、レモン、
これでもかとばかりに人工着色料のオンパレード。

キンキンする頭を抱えて、浜辺に行ってみる。
今日もいい陽射しだ。
二日酔いも手伝って、頭がいい感じにぼうっとする。

適当に時間を潰して、昼近くなって帰ることにした。
8人いるなら水上タクシーなるものが安い、と聞いて、お願いしてみた。

乗り場で待っていると、ボートが現れて、
舳先を頭から乗り場にくっつけたかと思うと、
まるでSF映画のように「ういいいいいいん」とハッチが開いた。

「なにこれ!?なにこれ!?」

昨日の酒と疲れで、無意味にハイテンションな僕らは大騒ぎ。
僕らが乗り込むと、また「ういいいいいいん」とハッチが閉じて、
途端にボートはものすごいスピードで走り出した。

「おお、なにこれ!?なにこれ!?」
「はええ、はええよ!!!」

またも無意味にハイテンションな僕ら。
しかし、本当に速かった。
10分もせずに対岸に着いてしまった。ちょっと残念。

****

港の駐車場からの帰りは、日常への帰路でもあるわけで。
週末をこれでもかと楽しんだ充実感と、明日への憂鬱を抱えて、
なんとも言えない複雑な空気。

でも、

束の間日常から切り離されて、
頭を空っぽにできた事実。

久しぶりの深い深い眠りに、
全てを委ねられた事実。

それが、僕の張り詰めた神経を、
ゆるりゆるりと解してくれたんだ。

そうやって僕らは、日常を抜け出してはまたそこに帰っていく。
日常があってこそ、非日常もある。
うまく飛び立って、うまく着地するために、
滑走路をいつも磨いておかなくちゃならないんだ。


また、飛ぼうよ。


また、そんなに遠くない未来に。




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