-殻-
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目が覚める。
あれ、ここはどこだっけな。 枕が違う。布団の感触も。 匂いがいつもと違うし、朝陽の向きも違う気がする。 目を開ける。 見慣れない部屋。 ああ、思い出した。ここは、島だ。 日常ではない、海の向こうの、小さな島の旅館だった。 いつの間に眠ってしまったのか、よく覚えていなかった。 他のみんなは、まだぐっすり眠っている。 時折、鼾が聞こえたりして、なんだかくすぐったい感覚。 どんなに仲のいい友人でも、ここまで無防備な寝顔を見ることなんて、 そうそうあることじゃないからね。 しかも7人まとめて。 部屋は一室しか借りていないから、あの子も野郎どもに混じって雑魚寝している。 前にも見たことはあるけど、本当に死んだように眠るんだな。 息をしてる感じが全くしない。 ちょっと怖くなったりする。 ずいぶん、髪が伸びたな。 などと思ったりする。 そのうち、また僕もうとうとと寝入ってしまった。 **** 「朝ごはんだよ!!!」 あ、はいっ!!寝てませんよ。起きてますとも。 と言いたいところだが、女将さんに起こされるまで僕らは誰一人目を覚まさなかった。 気が付いたら、もう8時半だった。 八割方閉じたまんまの目で、僕らは食堂へ降りた。 昨日はしゃぎすぎてすっかり燃え尽きた僕らは、 それでも朝ごはんをぺろりと平らげた。 顔を洗って、部屋でぼーっとテレビを見ている。 傍から見れば異様な風景だろうが、僕らは何とも思っていなかった。 「さ、行こうかあ。」 誰ともなく言い出すと、荷物を担いで旅館を出た。 **** この島は本当に小さい。 ふらふらと歩いていると、いつの間にか島の反対側にきている。 昨日さんざんビールを飲んで陽に焼けたビーチの、ちょうど逆側だ。 近くの店で、全員がかき氷を食べた。 何となく暗黙の了解で、みんながみんな違うシロップを頼む。 イチゴミルク、メロン、抹茶、コーラ、ブルーハワイ、レモン、 これでもかとばかりに人工着色料のオンパレード。 キンキンする頭を抱えて、浜辺に行ってみる。 今日もいい陽射しだ。 二日酔いも手伝って、頭がいい感じにぼうっとする。 適当に時間を潰して、昼近くなって帰ることにした。 8人いるなら水上タクシーなるものが安い、と聞いて、お願いしてみた。 乗り場で待っていると、ボートが現れて、 舳先を頭から乗り場にくっつけたかと思うと、 まるでSF映画のように「ういいいいいいん」とハッチが開いた。 「なにこれ!?なにこれ!?」 昨日の酒と疲れで、無意味にハイテンションな僕らは大騒ぎ。 僕らが乗り込むと、また「ういいいいいいん」とハッチが閉じて、 途端にボートはものすごいスピードで走り出した。 「おお、なにこれ!?なにこれ!?」 「はええ、はええよ!!!」 またも無意味にハイテンションな僕ら。 しかし、本当に速かった。 10分もせずに対岸に着いてしまった。ちょっと残念。 **** 港の駐車場からの帰りは、日常への帰路でもあるわけで。 週末をこれでもかと楽しんだ充実感と、明日への憂鬱を抱えて、 なんとも言えない複雑な空気。 でも、 束の間日常から切り離されて、 頭を空っぽにできた事実。 久しぶりの深い深い眠りに、 全てを委ねられた事実。 それが、僕の張り詰めた神経を、 ゆるりゆるりと解してくれたんだ。 そうやって僕らは、日常を抜け出してはまたそこに帰っていく。 日常があってこそ、非日常もある。 うまく飛び立って、うまく着地するために、 滑走路をいつも磨いておかなくちゃならないんだ。 また、飛ぼうよ。 また、そんなに遠くない未来に。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |