先日急逝した友人の葬儀から帰った実父は、実母にこう言ったという。 「俺が死んだら、棺の中は身内以外に見せないでくれ。」と。
何でも本人は見たくなかったのに、つい見てしまった友人の顔は 全くの別人に見えた上、やけに鼻の穴が大きく見えたそうだ。 それを見た時『こいつ、こんな顔してたっけ?』と 今までの記憶の中にあった顔に疑問が生じたらしい。 そのせいで自分の死に顔は見せたくないと、そういうことなのよと 実母は笑って話していた。
そこから何故か父方の祖父母(共に他界)の話へ。
私は小学校1年の時に亡くなった祖母も中学1年の頃に亡くなった祖父も、 どういうわけだか両方の死に顔というのを、まだ鮮明に憶えている。
祖父の場合はともかく(年齢もある程度いっていたので) どうして憶えているのか解らないのは、存命中の記憶が全然ない祖母。 写真ではその祖母に抱かれて笑う私がいるのだが、 いかんせんその写真当時の私は2歳前後で その後祖母とは長患いのため、殆ど会うことはなかった。 いわば久しぶりに会った祖母は既にこの世の人ではなく 私が生まれて初めて見た『死に顔』というのが、この祖母だったせいだろうか。 祖母の記憶というのは哀しいかな、この顔しかない。
そんな話をしていたら、実母は『両方共忘れたわよ、そんなの』と あっさり言ってのけた。
「そんなの憶えてたら、生きてる頃の顔なんて消えちゃうでしょ。 忘れなさい、そんなのは。」
それができたら苦労しないと言うと、間髪入れずに切り返される。
「だから○○○(私)とお父さんは年中胃が痛いとか言ってんのよ。 私と○○○(愚妹)なんて、そんなことないもんねー。」 ‥‥いつの間にか、死に顔談義から血液型談義に移行していたらしい。
ちなみに実父とその生き写しのような私はA型、 実母と愚妹はO型である。
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