蜜白玉のひとりごと
もくじかこみらい


2002年09月10日(火) 『冷静と情熱のあいだ』再考

雨上がりの朝、空気が心持ちひんやりしているので、長袖のシャツを着て出かける。こうして季節は少しずつ秋になっていく。秋の空気は、江國香織を読むのにぴったりだ。もちろん全ての作品ではなくて、そのうちの、私が気に入っている2,3の作品について。初秋には『冷静と情熱のあいだ』『ホリー・ガーデン』を、冬がすぐそこまで来ている秋の終わりには『流しのしたの骨』を読む。おもしろいくらいに、毎年同じ時期に読んでいる。作品と自分の周りの空気との間に、違和感がないのがいい。温度、日ざし、街の匂い。

今年は少し早かったかもしれない。昨日と今日で、『冷静と情熱のあいだ』を読んだ。いつも決まってRossoしか読まない。Bluを読んだのは買ってすぐの一回きりだ。辻仁成の文章がどうも肌に合わなくて苦手なのだ。物語のこちら側だけでも、十分に読みごたえがある。ただひとつ残念なのは、こちら側には芽実が出てこないことだ。私は彼女をわりと気に入っている。

たぶん『冷静と情熱のあいだ』を全部通して読むのはこれで4度目で、今回は気づかないうちに順正の味方をしながら読んでいた。この本に限っては、いつも誰かの味方をしながら読んでしまう。初めはあおい、2度目はマーヴ、3度目はあおいとマーヴで、今回が順正。誰の味方をしているかで、そのときそのとき、自分がどこに立っているかがわかる。自分が何を思っていて、何を望んでいるのかを知ることができる。

だから『冷静と情熱のあいだ』を読むことは、私にはある意味で苛酷なことだ。自分の心をえぐるような、見たくないものを見せつけられるような感じがする。それならわざわざ読むこともないのだけれど、しっとりと落ち着いた秋の空気に誘われて、今年もやっぱり読んでしまった。


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