蜜白玉のひとりごと
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本多孝好『FINE DAYS』を読む。本多孝好の作品はいつも登場人物たちの会話がいい。流れるように自然で無理がない。彼らにとても重要なことを語らせているのに、全然嫌味がない。それから、物語の世界にすうっと引き込まれる感覚もいい。まるでプールで潜水している時のように、外界の音が遮断されてしまう。長く感じられる通勤電車があっという間だ。
これほど気に入っているのに、彼の作品を読み返したことは一度もない。これからも恐らくないだろう。それは作品の良し悪しとか好き嫌いの問題とはまったく別の話で、本多孝好の作品は、それが一度きりの楽しみのために書かれたものであるように感じるからだ。
彼の作品を読んでいると、例えば芝居を見ているような、もう二度と同じものは見られないような、そんな気にさせられる。最初に読んだ時の感動は、再読では決して得られない。むしろ再読することで、白けた気分にさえなるかもしれない。
何度も読み返すことで自分の血となり肉となるような本がある一方で、一発勝負をかけてくるような本もある。一発勝負をかけてくる本は、細切れに読んではいけない。たっぷりと時間を確保して、神経を集中させて、心を傾けて読む。一作品読み終わると、だから、疲労困憊する。そして体中が言葉で満たされているのを感じる。
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