蛍桜

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ある田舎娘のお話

見えない空気に動かされてたんだ。
別にそこに、意味なんてなかったんだ。

朝、制服を着て坂を下る。
殺風景な風景の中にぽつりとあるベンチへ座ってバスを待つ。
冷たい空気が頬を撫でる。
そんな朝の雰囲気は大好きだった。

バスに乗って席に座る。
過剰に効いた暖房に不快感を覚える。
私が降りるバス停、でも私はボタンを押さない。
誰も押さない。
そのままバスに揺られ続けた。

辿りついた街で、都会の空気に飲まれていた。
この時間に、制服で、ここにいることの
アンバランスさに酔いしれながら
とりあえず、道を歩く。
でもそのうち、目的もなく歩くのも嫌になって
ベンチに座り、空気を吸う。
行き交う人々がたまに視線を投げかけてくるけど
そんな人々が切り込んだ空気を私は見ていた。
目の前の景色はうるさくて
太陽の下では意味のない電飾が露骨で気持ち悪かった。

とりあえず帰ろう、と思って立ち上がるけど
あ、そうだ、今は帰れないんだ、と思い出す。

海が見たい。
いつも唐突にそう思う。

でも海なんて、ない。
砂浜のある海に行きたいのに。

意味もなくエレベーターに乗る。
ボタンも押さずに乗ったまま待つ。
しばらくするとどこかへエレベータが向かう。
扉が開くとそこに人がいる。
私はそこで降りる。
無意味にガラス張りになっているそのビルのどこかで
私は地球を見下ろす。
地球は笑っちゃくれない。

周りを見渡す。遠くに山が見える。
山、の向こうには海がある。
巨人にでもなって、あの山を踏みつぶしたい気分。

無力な自分。
だけどそのことを悲しく思わない。
現実だから。

無知な自分。
何も知らなくていいと本気で信じてる。




今夜、家に帰ったらきっと誰もいない。

お母さんは私を置いて
家を置いて
出ていくだろう。

なんとなくそんな気が、してた。
私は今日から一人ぼっち。

家に帰ったら何しよう。
とりあえず、泣こうかな。

2010年01月28日(木)

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