蛍桜 |
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私が居なくなった世界 |
ふと、目が覚めた。 最後は小さな男の子と風船で空を飛んでいた気がする。 あの子は誰かに追われていて 私が空へ逃がしてあげたんだっけ。 守ってあげなくちゃと思って、助けたんだっけ。 で、ここはどこだっけ。 行く宛もなく、ふらふらと歩く。 もしかしたら足なんてなかったかも。 歩いてなかったかも。 地面を踏んでる感触が、何故かないから。 辿りついた先では、50代後半の女性がテーブルに向かって座っていた。 彼女は、自分の亡き両親の好きなものを紙に書いていた。 おとうさん、ガトーショコラ おかあさん、おはぎ 高齢なのに、ガトーショコラなんて、 随分とおしゃれなものが好きなんだな、その人。 あれ、そういえば私、その人に ガトーショコラをプレゼントしてあげたかった気がする。 その人は、細くて、白髪ばかりで、でも温かい人だった気がする。 部屋を変わる。 そこには男の子と女の子。 あれ、あの男の子、私が風船で逃がしてあげた子じゃないのかな。 それにしては、大きくなってるけど。 でも何故か、その子のことが、とても愛しい。 その子たちが遊んでる部屋の隅で パソコンに座ってる男性。 昔のデータを復旧させようと頑張ってるみたい。 私は横に座って、復旧方法を教えてあげた。 彼は礼を言って、復旧できた昔の写真を見始めた。 私は聞いた。それはなに? 彼は可哀想に笑った。 これは・・・ 彼はいろいろ話し始めた。 私はめんどくさくなって、聞いたことを後悔した。 でも、写真をもう一度見ると、なぜか悲しくなってきた。 写真の中では大自然の前で笑う彼と、女性。 今、大切そうに話をしている、彼。 きっとずっとこの写真を見たくて頑張ってたんだろう。 私はなんだか切なくなって泣きそうになってると 彼は聞いた。 あなたは、人間ですか。 分からない。 私は人間なのだろうか。 目が覚める前までは、確かに人間だったけど。 今の私の存在は曖昧すぎる。 彼は私の顔をじっと見て、写真に視線を戻す。 私は、すぐ傍の仏壇に飾ってある遺影を見た。 多分、私は今、人間じゃない。 仏壇に飾ってある遺影の女性と、 彼が今見ている写真の女性と、 彼に人間かと尋ねられた私と。 なんとなく気づいてた。 だからこの家に辿りついたんだけど。 みんな、同じなんだ。 私はもう、この世にはいないんだ。 彼はもう、私のほうを向かなかった。 ただただ写真を寂しそうに眺めているだけで。 私は宙に浮かんだ。 ほら、やっぱり、私。生きてないみたい。 空まで浮かぶ。 でも私はずっと地面を見下ろす。 屋根がすけて、みんなが見える。 おかあさん、 おじいちゃんとおばあちゃんの好きなもの並べてどうするの? お供えにでもするのかな。 私、おじいちゃんが死んじゃう前に おじいちゃんになんかプレゼントしてあげればよかったね。 おかあさんより先に死んじゃって、ごめんね。 息子。 幼なじみのその子と、仲良くね。 あなた。 私のこと思い出してくれてありがとう。 私のこと考えてくれてありがとう。 私のこと忘れないでいてくれて、ありがとう。 私が居なくなった世界。 まだちゃんと回ってた。 それが知れただけでも、満足。 っていう夢を見た。 |
2010年08月13日(金) |
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