沢の螢

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逝く
2002年02月16日(土)

隣家の奥さんが亡くなった。
一週間前に救急車がきて、入院していたことは聞いていた。明治生まれ、91歳、寿命と言っていいだろう。2人の息子が、代わる代わる訪れてめんどうを見ていた。晩年は、ご主人共々、24時間介護態勢になり、住み込みのお手伝いさんも含め、いろいろなサービスも受けていた。
若い頃は、ジャーナリストとして働いていたと聞いている。私がここへ引っ越してきたときは、まだ60代、若く、何も知らない私たちのよき先生であり、理解者でもあった。近隣関係でわからないことがあると、私はすぐその奥さんのところに行って、教えを請うた。的確で理性的なアドバイスは、とてもありがたかった。
「ご近所は選べませんから。ベタベタした付き合いは必要ないの。何かあったときだけ、助け合えばいいのよ。むしろクールなおつきあいの方がいいのよ」といつも言ってくれた。それは、人付き合いの下手な私に対する、思いやりだったと思う。
私が病気で、3ヶ月近く入院したときも、留守中の家のことを、何かと気遣ってくれた。こちらの気持ちの負担にならないように、さりげなく、うちの前を掃除してくれたり、配達物を預かってくれたりした。
私が、薬の副作用で、髪がひどく抜け、カツラをかぶっていたことがあった。そのときの、奥さんの言葉を私は一生忘れない。
奥さんはこう言ったのである。
「髪の毛なんて、またすぐ生えてきますよ。悪いものは、無くなった方がいいの。カツラでも何でも、利用できるものはどんどん使って、おしゃれなさいね」
率直で、暖かい言葉だった。
人の世話になることを好まず、誇り高い人だったので、自分でいろいろなことが出来なくなってからは、家に閉じこもり、この2年ほどは、姿を見せず、息子さんたちを通じて、元気かどうかを知るだけになっていた。いつか、お返しできるときがあるかと思っていたが、何もお返ししないうちに、逝ってしまった。
思い出すと、涙があふれてくる。入院中のご主人は、長年連れ添った妻の死を、どう受け止めただろうか。合掌。

2002年02月16日 13時00分03秒



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