独り言
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2006年04月20日(木) テリーデイズというBandについて・その2

1989年12月30日

この日亜龍は一人の女と出会う



初めて路上に立ったあの日からこれまで亜龍は大好きなTVアニメ『焼売童子』がO.A.される毎週水曜日を除くほぼ毎晩街角に立ち歌を歌い続けていた

後に亜龍はその頃の自分を
『他を寄せ付けない完全なる独り遊びに夢中な自律神経失調症』
と例えているがそんな退廃的状況も今夜終わりをむかえる事になる



女は突然に亜龍の前に現れ
「あんたの歌って最低ね」と吐き捨て
そしてすぐさまそれを取り繕う様に
「でもその右耳の形は悪くないわ」と言った


この失礼極まりない女こそ後のテリーデイズ・ギタリスト『スージー・キュー』である

彼女は本名・年齢・国籍さえも未だに明らかにされていないが当時その界隈に巣食う夜の住人の間では知らない者はいない程に名の通った有名人であった

何故なら彼女はテリーデイズとして初めてステージに立つほんの一週間前まで北京繁華街におけるセクシャル・ビジネスを牛耳る組織『蛇孔』の中枢人物であったのだから



テリーデイズ解散後スージー・キューはサブカルチャー専門誌『空々』のインタビューにて当時を振り返りこう語っている

「私にとって亜龍の歌なんて何の価値も無かったのよ
だって歌詞も日本語じゃん?
意味わかんねーし
どうだって良かったのよそんな事は

私が興味を持ったのは彼の右耳だけ
それだけでずっと彼の側に居たいと思ったのよ

でも私って…知ってると思うけどレズビアンでしょ
彼との間にロマンスを確立する事は不可能だった

だから一緒にバンドやろうって誘ったのよ


彼の歌は技術的にマジでクソだったけどそこに込められた感情はピカイチだと思ったわ

愛を感じたのよ凄く


だから彼が心から愛する音楽を共有する事で
私は彼の側にずっと居る事を望み
そしてその通りになったってわけ

単純でしょ?」




スージー・キューもまた亜龍と同様に幼くして『蛇孔』の先々代の首領であった父を失っており彼女の記憶の中に唯一生き続けている父の姿とは
『やさしく抱き抱えられた私が玩具がわりにいじって遊んだイビツな右耳』
だけなのだという

そしてその右耳の形と亜龍のそれとが非常に良く似ているのだとも




亜龍と出会った当初スージー・キューは「全くギターが弾けなかった」と言っているがそれは真っ赤な嘘で彼女は少女時代から裏ルートで手に入れたセックス・ピストルズやクラッシュ等パンク・ミュージックに傾倒しておりギターも数本所有していた
その後自身で立ち上げたオリジナルバンドも経験していて『是空浪士』というバンド名で全く無名ながら何故かヨーロッパツアーも敢行している


この事実に対してスージー・キューは未だに否定を続けている




このように突然現れた失礼極まりない女と理不尽な誘いを亜龍は
「ちょうど独り遊びにも退屈しちゃってた所だからさ」
と意外にもあっさりと受け入れたという



しかし
この日の亜龍の日記には

「所在なき魂の往く出口無き回廊を照らす松明は理由無き衝動と共にあるべきだと言う我が右脳裏
それを満たすべくして現れた女に我独りまた所在なき明日を夢見る」
と書き記されている


そしてその訝しげな文章から少し離れた場所に
「ガキの様に己に忠実であれ」
とメモ書きの様に付け足されている


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