独り言
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2006年04月21日(金) |
テリーデイズというBandについて・その3 |
1990年1月16日
北京繁華街のメインストリートを南に一本それた裏通り そこは通称『スネーク・ストリート』と呼ばれており蛇孔が支配する中国有数の風俗街であった(亜龍が毎晩歌を歌っていたのもこのスネーク・ストリートの一角であるとファンの間では認識されているが実際には更に南に50m程それた平和公園の周辺であった)
そこには蛇孔が所有する雑居ビルがいくつかありその一つである東園ビルディングの地下一階にスージー・キューは蛇孔の利権をここぞとばかりに活用し即席のリハーサル・スタジオを作り上げた
「だってあの頃は今みたいにお手軽なリハスタなんて何処にも無かったのよ 下手に気取った敷居の高いプロ使用のものが2〜3あったけど私等みたいな人種は『門前払いされる為に門に近づく事も許されない』って感じだったの…わかる?
だから作ったのよ自分で
単純でしょ?」
そこにはマーシャルのギターアンプが2台とインド製の無駄にバカデカく胡散臭いベースアンプが1台 それとこれまたインド製でライドシンバルの割れた華奢なドラムセットが設置されていた
そしてここでこの日初めて亜龍とスージー・キューはスタジオ・セッションを試みるのだがそこである一つの事実が発覚する事になる
スージー・キューは 「『音楽バカ』ってのなら聞こえはいいけど…あの時の亜龍は『バカな音楽好き』って感じだった
…バカって言うより無知
彼は何も知らなかったのよ
音楽に対する知識がまるでゼロだったの」 と語っている
スージー・キューは自分と亜龍の為に2本のエレキギターを調達していたのだがそのエレキギターを見た時亜龍は 「こんな薄っぺらいギターで本当にちゃんと音がでるのかい…お嬢ちゃん?」と小馬鹿にするような口調で言ったという
「クックックッ…笑えない? 彼ってばエレキギターも見たこと無かったのよ 彼にとってのギターってあの小汚いアコギだけだったのよ」
呆れたスージー・キューは仕方なく亜龍のギターをセッティングしてやりアンプのスイッチを入れてやった
「彼は一発でヤラれてたわ
恋しちゃったのよ…あの音に」
彼女のこの言葉通りその日の亜龍の日記にはスージーは「魔法使い」でエレキギターは「魔法のステッキ」だと記されている またこの日の出来事は「革命」で「歴史の教科書に乗せてもいい位」とまで書いている
初めてエレキギターを手にしその音の魔力を用いて革命を起こした亜龍の小さな世界はこの時まさに至福の絶頂にあった
しかし亜龍のこの高揚感もそう永くは続かなかった
その日から亜龍は路上に立つかわりにスージー・キューとのセッションを水曜日も含めたすべての夜に行う様になるのだがそれはセッションと言うよりは亜龍の自慰的行為に近かった
「とにかくメチャクチャだったわ 独特のコード感って言うか…とにかくデタラメなのよ
…まぁ独創的と言えばそれはそうであんなのでもそれなりに曲になってたのはある意味スゴいとは思うけど…
私こう見えてもかなり几帳面な性格だからさすがにイラっときちゃってさ だから彼に一からギターを教えてやる事にしたの」
彼女は街の古本屋でギターの入門書を購入し亜龍にはそれにそったギターの練習をさせる事にした
しかし彼女のこの思惑は亜龍にとって苦痛以外の何物でも無くこれを発端としてある些細な事件が起こるのだが結果としてそれがテリーデイズの特徴の一つとして挙げられる亜龍のベース&ボーカル・スタイルを生む事となる
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