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2005年12月13日(火) ■ |
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物部日記・『ヘルレイザーは境を静かに越えて・1』 |
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ヘルレイザー鎌足だった。
一ヶ月も学校を休んだり挫けてみたり佐々木女史と一悶着あったりで、もう怖いもんはないと思っていたりした。 小さい悟りというやつをした気分になっていた。 多分、誰が来ても自分を通せるような答えくらい準備していたつもりなのだが、案外にその自信というものは簡単に砕けた。 なかなかうまくいかないものである。そういえば、昔も同じような反省をしていたような気がする。 なんだか、昔から進歩がないんだなあ。
わかったような気になってどんどんと答えから離れていくことを、『魔境』というらしい。 私は自分が今魔境にいるかもしれないと思ったりする。 つまり何が言いたいかと言うと、案外に凹んでしまう出来事に出会ったのだ。
車のタイヤがパンクした。 「ノオー」 外人風に叫んでみた。
なんでこんなところでタイヤが裂けるのよ。っていうか、いつ裂けたの?! 運転していると妙に足回りから音がするなあと思って朝倉キャンパスについて確かめてみたら、案の定左後輪タイヤに亀裂が入っていましたよ旦那。 何これ? 何ナノこれ! パニックですよパニック。 ……と思いきや、案外冷静な私。 「じゃ、まずは駐車場停めますか」 作業が出来るように大学校内の駐車場に停めて、後ろの座席を漁る。 「えーと、確か」 あったあった。 取扱説明書である。 そう、こんなときの為に自動車にはスペアタイヤなるものが存在するのだ。
トランクを開けてさらに床をひっぺがすと、簡素なタイヤが一つ眠っている。 止めねじを外し、白日(と言ってもすでに夕日だが)の下にさらけだす。 「じゃあ、やりますか」 さすがにパンクしては自転車のように根性で乗って帰るわけにもいかない。 私はもう一般常識に照らされて生きる男、物部なのだ。
……そういえば、前もこんなことあったなあ。 あの時は時間は深夜だったし、家まで帰ろうと思えば帰れる距離だった。 それに、今はあの時ほど抱え込んでいるものもない。
しかし、なんだか似ている。なんだろう。
メールが来た。 そうだ、今日はサークルの先輩を連れてクリスマスコンサートをする小学校に挨拶に行くのだ。 さっそくジャッキとなんか棒みたいなのを取り出す。 「……あり? これ、なんて道具だっけ?」 ど忘れ。 「スパナじゃないですか?」 と言われ、思い出す。ああ、スパナか。……でもこれスパナだっけ? スパナはもっと小さくて握る奴では? じゃなくて 「誰ですか?」 振り返る。
「わたくしです」 女性がいた。
白衣を着た、ヘルレイザー鎌足だった。
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