夢見る汗牛充棟
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呼子
彼は何処に行こうとしているのか
荷物をまとめる俯き加減の横顔が
硝子ごしに窺えた
裸電球の下には ほんの小さな鞄があった
彼は短い旋律を口ずさみながら
橙に照らされた部屋を片付けている
僕は思い願う
硝子を叩いてもいいだろうか
彼の鞄に僕らをも仕舞ってくれるように
合図していいだろうか
僕は思い確信する
彼は必ずたくさんの僕たちを
手に取り 懐かしげな眼差しで
透明な笑みで僕らが過ぎた時だと教え
優しく残酷な手ぶりで置き去るだろう
彼は幸いの中へ
ほとんど手ぶらで往こうとしている
彼が僅かに身に帯びたものたちが
喜びのため息を漏らす
僕がほとんど憎しみながら
彼の背中を呼ぶ声が滑り落ちる
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