夢見る汗牛充棟
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救難
しろいひとが倒れていた
ぎくしゃくしてくたり
何故こんなにしろいのか
しろいひとの傍らに立ち
男が誘導灯をかざし
一対のように腕を振り回していた
半島の根元は帰宅時で車は
重なってとろとろと進んでいる
バスも乗用車も軽トラックも
スクーターももどかしそうに
しろいひとを通り過ぎてゆく
白と黒に塗り分けたゲーム盤の上の細い道を
私は自転車をこぐ
知らないふりで去ろう
ブレーキをかけて減速したがる
この左手は嫌な奴だな
無意識にそばだてて
サイレンを聞き取ろうとする
両耳もどうにも悪趣味だ
なんの意味があるのか
いま生の幸運を思うほど
とってつけたものはない
毎日に感謝などしているものか
腹に溜まった息を吐く
籤に当たる確率と良く似た双子
これは摂理というのだろうか
あのひとは生きているろうか
ぐるぐるぐると渦をまきうねる
数秒前は晩酌のことを
考えていたかもしれないが
家族のことかもしれないが
いまは苦痛なのか安らかなのか
誰にも理解できないところ
開けられない箱の中や
いたるところで
横たわる身体をしらなさそうだ
私は家に帰ろうとする
裏返しのサンダルの片方や
舗道に置かれた花束が
ここに人がいたんだ忘れるなと
叫ぶ声を聞かない
ひとのおぼろな影などみない
毎日あくせく わけもなく
帰ろうとするのと同じにして
ただ今だって自転車をこぐが
しろいひとは静かで停止して
切り離されてもののようにみえた
しろが焼きついて まぶたに
ちらちら 見え隠れする
いわれないと感じる非難とも
振り切ろうとしても私を手招く
酒とも思える匂いがする
家路につく人は
不平をもらす喜びゆえにか
綱にしがみついているようなものか
ほかにもあると叫ぶものもあれば
そんなものさと嘲るものもある
あと何日と数えるのが怖いあまり
しろいひとに羨望を感じるのも本当だ
安息ならばいいじゃんとは
呆れ果てたお笑いぐさだ 私は
「死の悲しみは生者の中にだけある」
など受け売りを呟いたりして
薄ら寒い私の口元をはく笑みを
見る覚悟もない
尻を浮かせて 全速力で
家に逃げ帰る途中
夕刻の混みあった道を懸命にひた走る
けたたましい音の救急車とすれ違い
お前の行く先を知っているぞ と思った
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