夢見る汗牛充棟
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2000年03月26日(日) 夜と家

夜と家




たとえば
このひとはここに住みながら
扉には鍵をかけている
窓のほんの隙間から飛び込む蝿と
日がな一日呼び鈴の
ふるを待ちわびながら
けれど静寂に安堵しながら

たとえば
壁のうち暗がり怖ろしくて
ここに潜む鬼をはらうため
過剰な灯りをともしながら
放射する光に眩みながら
ひとは両目を覆い横たわる
疲れているが
深く眠りたいのだが闇は
いやとすすり泣きながら

たとえば
暗がりの中では
闇の粒が影絵を描きながら
澱み 流れ 溜まりながら
うねるそれは見開いた目の内側で
咆哮する異形のものにかわりながら
ひとを喰らおうとしている
影法師がほうほと笛を吹きながら
ほとほと扉を叩く憂鬱な音



恵 |MAIL