夢見る汗牛充棟
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2000年03月31日(金) 錯綜

錯綜



そのひとは誰ですか
砕けた鏡が雨になって降りました
すべてのかけらに姿が映ります
すべてのかけらが光をはじきます
丈夫な傘をさがしてゆきましょう
私は血をとても恐れる
あおさえ染める彩りを



それらは知らない遠いひと
薄暗い淡い影が去来する途で
合わせ鏡が知らない誰かを
封じてしまいました
井戸は鎮まりつるべは落ちない
跪くお人形が紅色の涙を
こぼしていました



昔捨てたはずのお人形は
ずっと懐のなかにありました
あの着物は母が作りました
針と糸はうるさい口を縫う為に
針山に千本さしてあったし
針山につめたものは黒髪でした



おおきな熊の耳はもげました
愛するゆえに
幼い子供が引き摺り歩いた
板の上には黄色いものが
てんてんこぼれておりました
それは魂でも花びらでもない
汚れた重い海綿でした



たくさん姿が落ちて行きました
鳥肌たつ音でふるのは
そこに穴を開けるため
あの子の居場所は知りません



耳を塞ぎながら受け取ったのは
湿した白い脱脂綿で
待ち受ける唇に触れる手は
隠しようもなく
震えていました



恵 |MAIL