青森市内から車で三時間弱。 霧がかった木々の間を抜けた途端、硫黄の匂いが鼻を突く。 「霊山恐山」 日本三大霊場の一つにして、最も彼岸に近い場所と言われる。 車から降りる。 伊勢神宮の時のような、プレッシャーは無かった。 「日本三大霊場」がひとつ高野山の時のような緩やかな緊張感も無い。 出雲大社の時のような、温かい存在感も無かった。 「ん、行ける」 特別なプレッシャーも何も無く、足を踏み入れる事が出来た。 場内の配置はシンプル。参詣の寺部分と、地獄巡り等の部分が左右に並んでいる。 天気は曇り一時雨。 観光地化されている他の寺社仏閣とは違い、地味に真面目な霊場。 のんびり全部を回っても一時間くらいで済むかもしれない。 至る所でカラスがこちらを見つめいている。 深呼吸をして、首の後ろ、うなじの辺りから「氣」をぬく。 「無用心か?」 たぶん、何も無いだろう。 自身、霊感だの霊媒体質だの、恐怖体験だのとは、全く無縁だから。 「生半可な気持ちで恐山に入山するべからず」 と、いろんな人が口を揃えて言う。 一方、観光バスでドカドカと興味本位の集団が土足で上がりこんでくる。 不思議な光景だった。 地獄巡りや極楽浜の風景よりも、こちらの方が不思議だった。 デジカメのストラップを留めている金具が、 カメラを構えようと手を上げた瞬間、 何のはずみか、折れて地面に落としてしまった。 液晶の表面保護のアクリルが割れただけで済んだ。 帰りの道すがらも何事も無く、無事帰還。 恐山の宇曽利湖は、不思議な綺麗さだった。 アクリル絵の具を水に溶いたようなグラデーション。 自然美の不思議に満ちていた。
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