| 2008年06月17日(火) |
「なぎさの媚薬〜」と打ちのめされて |
重松清著「なぎさの媚薬4 ねえさんの浴衣」
地方の造り酒屋の次男と、家を継がなければならない長男とその嫁。 嫁は跡継ぎを産まなければ意味がない、という厳しい目でしか見られることのない世界。
子ができず、最初の嫁はそれを苦に自ら命を絶った。 ふたりめの嫁。 子ができぬ原因が己にあると知ってしまった長男。 それでも、そうと打ち明けることのできなくなっていた己の立場。 そしてそれを知りながらも応えよう応えなければならない、己がこの家にいるためには、と苦しむ嫁。
なあに、種が残ればええんじゃ。妾に産ませて本家でひきとりゃあええんじゃ。
親戚の声。 それも無理な話だとわかっている長男。
ずっとずっと、兄のせいでねえさんが苦しめられていたと思っていた次男は、そんな田舎が嫌で東京に出て二度と田舎には帰るまいと決めていた。 そして家を持つことを恐れていた。
すっかり中年男になりきった頃、「娘の結婚式じゃけ、どうしても出席してほしいんよ」との兄を断れず、恋人を連れて故郷に久しぶりに戻ることに。
兄の娘。 ねえさんが苦しみ、思い悩み、弟である次男の部屋に夜中に訪れ交わったこと。
兄とねえさんと自分と家との辛く苦しく続いた日々。
なぎさの力によって過去のすべてのことがわかり、次男は切に願う。
みんな幸せになってほしい。 自分の今は何ひとつ変わらないとしても、兄もふたりのねえさんも、姪っ子も。
自分以外の過去を変えるため、彼はあのとき選ばなかった道をなぎさの助けによって選び直す。
そして彼らの未来、つまり現在は、幸せなものになったのだろうか。 彼が選んだものは正しかったのだろうか……。
重松さんの作品は、戸惑い、後悔、不安、願い、希望、幸福、それらを結果としての形には決してしないで物語を描く。 簡単に答えなど出るはずもなく、出たとしてもそれが永遠に変わることなどない、だから戸惑い、悔やみ、望みを抱き、明日を思って今日を生きる。
久しぶりの重松さんの作品は、胸を揺さぶられました。
やはり、素晴らしい作家さんです。
おこがましいことかもしれませんが……。
プロのそのトップに位置する方のその力に……。
打ちのめされて、立ち上がって、構え直します。 設定や表面的なものではなく、内のものを掴めるものを描くために……。
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