「隙 間」

2011年03月10日(木) takeX4,Mr.Nosleeve in Omori

take,take,take,take...

世の中、「give and take」とよく言うが。

わたしは「give」した覚えがほとんどないような気がするのである。

today for you,
tommorow for me!

ならぬ、

today and tommorow for me!

の日々である。

これではAngelに、スティックで袋叩きにされるか、マンションの上から落とされるか、コートを片袖すら残さずに剥ぎ取られてしまうだろう。

そして、

アイム、ミスター・ノースリーブ!

とわたしは叫ぶのである。

いや、意味が違う。
本来の意味を知りたい方は、どうか「RENT」を御覧いただきたい。

意味は違うが、

「ない袖は振れぬ」

というところは合っていたりするのである。

久しぶりの大森で、叱られてしまったのである。

「あなたねぇっ。無いものは、それを埋めることなんて出来ないんだよ?」

イ氏が、おそらく初めて、わたしに声を荒げたのである。

とはいえ、普段よりも、少しだけ強い口調で。

そして、わたしの目と目を合わせないように。

普段は穏やかで、どれどれと瞳を覗き込むようにして話しているひとが、慣れないことをしている様がありありと伝わってくる。

隣では、田丸さんが両手を膝に置き、肩をちぢこまらせて、床をずっと見つめていた。

「リタ嬢に代わる、短時間効果の軽いものはありませんか」

わたしのそれが、発端であった。

リタ嬢の効きのよさとたちの悪さは重々知っている。
だからそれを避けるために、しかし本来はモテ男だけで一日を乗り切るのが最善なのだが、そうはゆかないときがある。

モテ夫はおよそ十二時間。
朝の八時から夜の八時までが最長で、慣れや体調もあるのでそれ以下だったりする。

あと四五時間だけ集中して仕事をしなければ。

と予定外に、やむを得ずなったとき、つまりは、夕方にこれからのピークがきたときに、モテ男は使えないのである。

耐えて耐えられるものならば、それはナルコではない。

現在、ひとつのデータを、複数人で同時に編集・作成する業務形態の仕事をしている。

それは、元データを自分のところにコピーして作業するというわけでなく、元データそのものを、常に、それひとつしか正しいものはない状態を保ち続けるために、そうしているのである。

わたしは、落ちる前後で自分の言動が確かか不確かかの判断がいっしょくたのときが多い。

これは、大問題である。

自分がここまでやったかどうか、やったつもりになっているだけなのか、やったのか、違うことをやったと知らずにやったのか。

そうならぬよう、効いてるうちに出来るだけ、で切り上げるよう毎日を努めているのである。

それでも「仕事」はやらなければならない。
常識として。

だから、対策がたてられるならば、武器を持てるなら持てるだけ、持っておきたいのである。

強力過ぎる武器は身を滅ぼす。
だから、滅ぼさない程度の、武器を。

「ボクはねぇっ。あなたにそんなことのために、それを出したりしませんよ。出さずに、仕事を辞めろ、と言うからね」

こういうところが、わたしがイ氏を信頼し続けていられる由縁である。

「口外したって、何の得にもならない方がほとんどだからね」

それも重々承知している。

だから、わたしはばれぬように、一線を引き続けている。

「お前は、人と疎遠になろうとしてばかりいる。もっと会社のひとたちと……」

父にたびたび言われるが、親しくなり、一日の長い時間や休養に貴重な休みを過ごすようになれば、ばれてしまうのである。

普通に一日を、一緒に過ごせないひとなのだと。

「今回の忙しさは乗り切ったんだから。
だけど次も乗り切れるとは言えないし。
だけどだからといって、われわれはあなたに何かをしてそれが出来るようにすることは、出来ないんだからね」

切った張った、再生させた。

ということが、不可能なのである。
これが、生涯続くのである。

「奇跡」を信じたり求めたりしたら、駄目だからね。

この言葉に含まれているイ氏が言いたいことは、ようくわかっている。

出来る限りのなかで、出来る限りのことだけをするようにする。

「ない袖は振れない、なんだからねっ」

後ろ向きに聞こえるが、前をしっかと見つめ続けているために必要な心得なのである。

しかし、奇妙な光景である。

還暦を越えたイ氏に、強く叱られ諭されているわたしは向かいに座り、穏やかにうなずき、共感し、応え。
かわりに、イ氏の視界には入らぬ横の椅子に、しゅんとうつむき肩をちぢこまらせて座っているうら若き女子の田丸さん。

いったい誰が悪いのか、わからない。

誰も悪くはないのである。

これだけをみると、なんてこと、と思われるかもしれない。

しかし。

「わたしたちは、手伝いや手助けはできるけど、救ってあげることはできない。
それはあなた自身があなた自身に対しても同じ。
だから、手助けの一線を越えたものをはじめから求めなければならないようなことは、しないように」

普通を振る舞い続けようとすることで。
やがて確実に、
代わりに失ってゆくだろうものやことを。

わたしは浅はかな甘えに依ることによって、見失いかけていたのかもしれない。

「だから早く、筆一本で稼げるようになりなさいよ」

一本もなにも、稼げるだけの筆を振ったことは、ないのである。


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