2011年04月10日(日) |
「不恰好な朝の馬」と不恰好な片袖男 |
井上荒野著「不恰好な朝の馬」
井上荒野作品は、しっとりしている。 見た目は気付かないが、触れてみると指先にうっすらと感じる程度の潤いを孕んでいるようなのである。
それは決して不快ではなく、生きているものから伝わってくるごく当たり前のもので、ときにそれには気付かなかったりするくらい自然なものだったりする。
「孕んでいる」という表現が相応しい井上作品だが、しかし今回に限っては「含んでいる」のほうに近いように思える。
あとがきの解説にも書かれているが、
人生なんて、結婚なんて、恋愛なんて、と思えるときに、クスリと笑いながら読める作品。
なのである。
舞台は団地である。 そこに暮らす人々の物語が団地という中で交錯し、出会い、すれ違ってゆく。
同級生らと秘密結社をつくり、団地のあちこちにスローガンのポスターを一夜で張りまくったりする一見真面目な女子高生。
教え子と関係を持ち、ホテルにゆく前に必ずクリームソーダを頼む高校教師。
結婚式前に突然別の女と姿を消され、夫となるはずだった男の両親に店を借り、さらにその後毎年誕生日を祝ってもらい続ける女。
その男の妻となった女は、その前の女のもとをこっそり知らぬふりをして店を訪ねている。
他にもまだ、あり得ないが十分にあり得る心情を抱えたものたちが、登場するのである。
いちいちをまともに受け取っていては、人生どこかで笑えなくなってしまう。
眉間に皺を寄せるくらいなら、できれば、困ったものさ、と眉尻を下げて笑ってしまいたい。
そんなときも、ある。
井上荒野作品は、ついつい読んでしまうものたちばかりである。
さて。
Mr.No-sleeveだったのが、どうやらMr.sleeveくらいになったようである。 しかし「RENT」のそれほどではない。
しかし今夜は、寒い。
朝の陽気にのせられてCoatを羽織らずに出てしまった。
CoatがないならMoatになろう。
ひとよりも一日に余裕がないくせに何ができるのだろう。
やたらと重いだけのコートや、干からびた田んぼのような空堀にしかならなくても。 せめて風から守り、時間稼ぎになるように。 持ち物は鞄ひとつくらいしかないが。
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