「隙 間」

2011年04月12日(火) よくわからないが桜は散りはじめている

竹さんて、よくわからない人ですよね。

伊豆君に、ばんざいするかのように言われたのである。

するどいんだか、抜けてるんだか、どっちかはっきりしてくださいよ。
じゃないと、僕も対応に困っちゃうじゃないですか。ったく、ホントに。

悪意や非難を込めての物言いではないようなのである。

わたしは話を聞いていると、そこにわたしが関わらない限りにおいて、結果だとか背景だとかを直感で当ててしまうらしい。

それは別に考えて、読み取っての結果ではなく、まさに反射神経、脳みそではなく脊髄から出てきたりする発言だったりする。
そこにわたし自身の思考や予想や想像が入り込み、不足を補おうといじくりだすと、とんちんかんなものになってしまう。

わからないことはわからないまま。
無理にわかろうとこねくり回さない。

これを守れず、じたばたし出すと手に負えなくなってゆくのである。

その落差が、困るんですよ。
おっ何でそんなことわかるの、と思うことがあれば、何でわけわかんないこと言ってるの、と思うこともあって。話がしづらい。
わかってて言ってるのか、真面目に聞かれてないのか、わかんないんですよ。

失礼な。

不真面目なときはあからさまに、そうとわかる顔で発言している。

「これは、どうしたらいいんですかね……」

BIMの入力方法の方針を打ち合せている場で、伊豆君が恐る恐るわたしの顔を伺うように見つめたのである。

わたしは丁度、ホットの缶コーヒーが自販機から無くなっちゃって、と。
貴重な温かい缶コーヒーを手の中で転がし揉みながら、冷たい手を温めていたのである。

うーん、と。
待ってください。やっぱり、いいです。
なにをせっかく。
今、めちゃくちゃ怪しい顔してましたよ。だから、言わなくていいです。
いいのかい、言わなくて。
神がおりて来ましたか。
おりては来ない。
ますます、いいです。
いいんだ。
めんどくさいなぁ。いいですよ、言ってみてください。
「ホットかん」

古墳氏がおもむろに、手帳にその問題点を書き込みはじめた。

じゃ、これは今度解決しようか。

テーブルに、カン、と置いた缶コーヒーをわたしは手にし直し、仕切りなおそうと試みる。

気づいたら口に出てしまっただけで、ちゃんと、別にあった。
あった、て、過去形じゃないですか。
そりゃあかんやん。

二人からの一斉口撃に、わたしの雑念はたちどころにかき消されていった。

おかげで脊髄回路からの発言力が開き、ことなきを、いや万事解決を導くことができたのである。

ったく、これだから竹さんは。

ブツブツこぼしながらそれを書き込む伊豆君にうなずきながら、古墳氏も自分の手帳に書き込んでいる。

わたしはただ、してやったり、とニヤニヤするだけである。

なぜ自分がそう言ったのかわからないが、後になってその意味が、ようやく脳みそに上がってくる。

おお、なるほど。

無我の境地でいつもいられたら、どれだけわたしはものを言い当てられるのだろう。

できないことだからこそ、できるときを妄想するとにやけてしまう。

お多福さんに、言われたのである。

社内結婚とか、社内恋愛とか。二崎さん夫人と話してたんだけどさ。
まさかお多福さんも進行中とか?
まさか。わたしはあり得ないって。てか、他の男連中は新入社員の女の子が入ってきて、大チャンスじゃん?
わたしはひとりだけこっちにいて、なんも変わらんけど。
そう、それを二崎さん夫人と話してたのよ!
二十代あたまの人らはもはや異星人で、きっとなんも触れられないですけどね、わたしは。
だから言ってたんだって。
何を?
竹さんは、ずっとひとりで妄想(の中で)恋愛してて、そのネタを話してて欲しいね、と。

妄想劇場と言われたが、深夜の中華食堂のアルバイトの女の子と、彼女目当てに通うサラリーマンの一幕を話したことがあったのである。

中華食堂のコはどうなったのさ?
まだモジモジムズムズ打ち明けられずにいるんじゃないでしょうか。
続きは早くね。
それは義務ですか。休憩の束の間のもののつもりで。
ああ、そんなことはどうでもいいから。でね、頼むから竹さんには、現実で恋愛とかせずに。
せずに?
ずっと妄想だけでいて欲しいね、って、なったから。
なったんですか。
そう、なった。だからよろしくね。

わたしが知らないところで、とんでもないことになってしまったようだ。

もとい。

妄想は自分ができないだろうことだからこそ、翼が生え羽ばたけるのである。
それと想像との違いが微妙ではあるが、脳内でパチリとその光景がはまったとき、ある意味無我の境地なのかもしれない。

我があり過ぎていったいどれが我なのかわからなくなり、結果的にわたしの我ではなくなる。

我の世界に様々な我が集まり暮らし、我同士で物語を紡ぐ。

そろそろ我のひとつが、語りを結ぼうとしている。
ほどけないように、固くしっかり結ぶか。
また紐解けるよう、ゆるく結ぶか。
彼女はためらっている。

膝を抱えた手をほどくのか。
頑なに抱き締め続けるのか。

桜はもう、散りはじめている。


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