2011年04月28日(木) |
「プリンセス・トヨトミ」 |
万城目学著「プリンセス・トヨトミ」
随分長くかかってしまった。
もっと気軽で、娯楽的な物語のはずであった。
いや。
たしかにその通りである。 時間をあけながらであったり、気力尽き果てつつであったりしたせいもあるが、途中、飽きが漂いかけたところがあったのである。
比べてはならない。決して、森見登美彦氏と。
同じように関西の具体的な街を舞台として描かれているとはいえ。
この物語は、大阪の男たちの、滑稽なほど純朴な愛の物語である。
愛というのは、情愛、である。
この先を詳細に語ると、大阪国の手によって妨害、排除されてしまうおそれがある、る……ありまんねん。
そないなこと、ほかしとけっちゅーねん。 ええから、このインチキ関西弁、元になおしい。
女たちは、男たちよりも、よっぽど強かなのである。
最後になって、おおっ、と思わされてしまった。
建築に携わっている人間として辰野金吾の名前が出てくるのは、なかなか嬉しいものがある。
東京駅が、それの有名な作品のひとつである。
現在、建築当時のそのままの姿を取り戻すべく工事中だが、赤レンガの、といえば、ああ、と思うだろう。
東京駅といえば、内田百ケン先生の「阿房列車」など、とても縁がある駅である。
食堂で腹を満たし、いや、正しくは列車でお酒を楽しむまでの間繋ぎで、発車時刻になるまでの待ち遠しさを、埋めるのである。
今は「駅ナカ」といって、様々な店舗が構内に軒を連ねているが、女性らの圧倒的多さに、どうもわたしなどは落ち着かないのである。
そうでない方には、とても楽しめるようになっているのである。 なにせデリ・スタイルの店が、目移りするほどある。駅弁を選ぶだけではなく、ここで様々な、自分なりの弁当ができる。
帰宅しておかずにするのも、もちろんよい。
さて。
かなり、ヤバイ。 思うよりもダメージが深く強く、響いている。
やるべきことと、やってあること、それらの境目がなくなっている。
たがだか一時間程度の前までのことが、順序をつけて思い出せない。欠落する。
これが、どうにもマズい時期のわたしの、現実にある事実なのである。
思い出そう、考えよう、落ち着こう。
ひとつ瞬きをするつもりが、目を開けると五分十分が過ぎていてますます境目がなくなってゆく。
これ以上、誰かと関わっているのは無理だ。
明日明後日もあるから、と共に仕事している古墳氏に言い切って席を立つ。
「はい、お疲れさんでーす」
にこやかに手をふってくれる古墳氏への後ろめたさを感じる余裕すら、なくなっている。
せめて周りと同じように働けないのか。
貧弱さに、ひたすら参ってしまう。
膝が崩れないように、足早に駅へと向かう。
rent rent rent rent rent! we not gonna pay rent!
バケツストーブをひっくり返し、火の粉をアパートから撒き散らすマークとロジャー、住民たちが、叫び続けている。
駅ビルに入ったところで、突然、膝が抜けた。
崩れた側の肘を、誰かが慌ててささえてくれた。
おいおい、早いよぉ。 追いつけないかと思った。
「ひざカックン」をわたしにきめてみせた二崎さんとその奥様の明子さんだった。
はっはっは、見事に崩れたねぇ。 危ないから、やりすぎだって。
関わっていられない、とは前言撤回である。 膝と一緒に、固かったものも砕いてくれたようだった。 疲れてヘロヘロなだけの有様なら、このひとらには見せても大丈夫。 同じ時間を共有していないから。
ああっもう、疲れてヘロヘロなのに、なんで夫婦仲良く帰ってるなかにわたしを巻き込むんですか。 いやいやいや。
二崎さんはこの手のからかいが苦手である。 どうだコンチキショウ。
連休はどこか行かないの?
明子さんが旦那様である二崎さんをみかねて、話を変える。 うむ。夫婦だ。
お仕事ですよ、もう。 うそ、かわいそう。 カワウソですよ、ホントに。 あ〜……。
今度は明子さんが返答に困っている。
連休明けから、山口に常駐になっちゃってさぁ。
二崎さんがダメージから回復し、驚きのカウンターパンチを。
はぁぁあっ?
まがりなりにも会社の目上の方に対して、思いっきり失礼な反応である。
じゃあ、とわたしは明子さんを振り返り、
「フグ」送ってもらいましょう。 なぁんでみんな「フグ」なんだよぅ。
二崎さんが、やれやれと笑う。
発想が貧困なもんで。 でも妄想はすごいんでしょう?
明子さんが、お多福さんから聞いていたのだろう妄想劇場のことを指していう。
もう、そうなんです。
いや。いたって健全でR指定なんか、映倫なんか問題ないやつですからね?
言葉を失っていたふたりに、正すべきことはつたえておく。
お多福さんのことだから、きっとまともに話してはいないだろう。 さらにケンくんが膨らまし、ねじってあるに違いない。
何はともあれ。
仲良きは美しきふたりと、お疲れ様でした、と別れる。 別れた後は、ふたたびはじまるしばしの戦い。
帰りの品川からの山手線内回りは、比較的座れる。 それがありがたい。
明日からの休日出勤は、やや時間の融通をきかせて、この時期を早く乗り越えるようにしなければならない。
薬を飲めば治るというものではないのだから、なんとも読めない困ったものである。
手っ取り早いのは、腐るほどどかんと休む、なのだが、その「どかんと」の加減がムツカシイ。
あちらの苛酷さを思えば、わたしのこの程度はたかが昼飯抜きの一日のつらさであり、だから言葉を飲み込むしかない。
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