有川浩著「図書館内乱」
著者の代表作となっている大ベストセラー「図書館戦争」シリーズの第二巻である。
読書の自由を守るために設立された「図書隊」と、差別不平等教育に相応しくない図書を「検閲」という名の暴挙で取り締まろうとする「メディア良化隊」。 自衛隊よりも実弾による実戦が激しく行われる二つの相容れぬ組織。
「国家行政組織」対「地方自治体組織」
戦いの日々のなか、子どもの自分の大切な本を毅然と取り戻してくれた図書隊員に憧れ、図書隊に入隊した笠原郁(いく)。
図書隊初の女性特殊部隊員(タスクフォース)に選ばれるも、頭より先に感情が、身体が、手が足が出てしまい、上官の堂上にどやされ、怒鳴り返し、まったく賑やかながら過酷な日々を送っていた。
憧れのあの人、「わたしの王子様」が、実は誰だったか笠原は顔を覚えていなかった。
何を隠そう堂上その人だったのである。
感情に駆られ、いち少女の為に不用意に用いてはならない権限を行使し、少女の夢を守ったがために、厳しい査問委員会、懲罰を受けることとなった堂上は、笠原が憧れた「王子様」とは、単なる未熟者の消し去ってしまいたい過去の己の姿でもあった。
「だからあんなヤツに憧れてくれるな」
今回、その査問委員会に笠原までもが巻き込まれてしまうのである。
政治的に、言質をとらんがための執拗な、精神にくる口撃。 単純直情馬鹿の笠原を上官として、男として全力で守ってやらねば。
本人はひた隠しにしているが、お互いがお互いを特別に、思いあっているのである。
周りはとうに気付いているのに、当人同士は相手の気持ちを気付かぬまま。
ヤキモキを通り越してしまいそうである。
そこで、うまいのが有川浩である。
ドカンと、これまた飽きずにさらにヤキモキさせられたくなる爆弾を、投じてくれる。
ストイックな環境で、デレデレな恋愛模様。
絶妙である。
さらに著者の別の作品である「レインツリーの国」という他社出版元とのコラボレーション的な行いがされている。
聴覚障害の少女と健聴者の青年との恋物語である。
その作品を、聴覚障害者の少女に勧めることは、差別的虐待的な行為である、と堂上の同期である小牧が、抗議団体に拉致監禁、拷問攻めにあわされてしまう。
その聴覚障害の少女とは小牧の幼馴染みのようなもので、また互いに好きあっていた少女であった。
小牧がそんな目に合わされているとは本人は知らず、また小牧自身が知らせるな、と。
「読書の自由」
をうたう図書隊の存在が、疎ましくて仕方がない国家組織「メディア良化委員会」。
あなたが子どもの頃に読んで憧れたおとぎ話の本が、
「養母、義姉らによる児童虐待を促し、また家庭的に不幸な者を殊更に示唆する要素となりうる」
として、シンデレラを二度と読むことができなくなったとしたら。
「不当な交換取引を強いる悪逆非道な行為を美的に表現することは教育上よいわけがない」
と人魚姫を読むことができなくなったとしたら。
「他力本願、自らの努力する行為を放棄するきっかけになりえる」
とドラえもんを読むことができなくなったとしたら。
昨今の社会教育環境において、大袈裟だがあり得ない話ではないかもしれないのである。
皆で声を揃えて叫ぼう。
「読書の自由を!」
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