「隙 間」

2011年05月18日(水) 「それでも花は咲いていく」

前田健著「それでも花は咲いていく」

ロリコン、マザコン、ゲイ、マゾ、腐女子、老け専……。

社会的マイノリティな人物たちが、花の名が付けられた九つの物語の中でそれぞれの切なる思いを叶えようと生きる姿を描く。

著者は、「あやや」こと松浦亜弥の顔真似で最初に話題になったお笑い物真似タレント「マエケン」である。

彼自身、マイノリティの人間であることを公表もしている。

だからなのか。

本作品は、ちょうど今、映画化されて上映中らしい。

タレント作品をあまり手にすることがないわたしが、なぜこの作品を読んだのか。

先週月曜日、本社に連絡会で訪れた時のことである。

「竹さん。会社にきたら、僕のとこに寄ってください」

との社内メールがケン君から届いていたのである。
それを自席で見てから本社に向かったので、一体何事かあったのか、連休中の土産物でも渡されるのか、しまった会社の分などわたしははなから買ってきてないぞ、だから当然ケン君に渡せるものもない、土産話も、今は空しさ切なさばかりで、楽しい話をしてやれるような方にスイッチが入っていない、さあどうしよう、と戸惑っていたのである。

「なん、呼び出しちうが?」

席にいたケン君に、恐る恐る声を掛ける。

「竹さん、つれないんだもんなぁ。会社来ても、俺に声掛けないで向こうに帰っちゃうんだもん」

と、苦情らしきことを言われていたのである。
何をいわんや。

なぜにわざわざ野郎のとこにご機嫌いかが、と行かねばならんねや。

と却下させてもらったが、そう言ってくれる気持ちくらいは、応えてやらないでもない。

べべべ、別に自分から声を掛けにきたんじゃないからね。
会社のメールでわざわざ「来てくれ」って言うから仕方なくなんだからねっ。

……ツンデレか(汗)

との自分にあったらよいだろう妄想をしてみてから、「やむ無く」ケン君のところに行ったのである。

「あ、来てくれた」
(ああ〜、来てくれたんだ)

頭の中の女子の顔とはほど遠い、むさ苦しいケン君な顔に、気持ちが一気に落ちて行く。

「なんね、わざわざ。土産なら、俺からのはないけんね」
「違いますよ。土産じゃないですけど」
「けど?」

ちょ、こっちこっち、とわたしを打合せコーナーの方へと引っ張ってゆく。

あ、いや、乱暴は。
職場でそれは。

すっかり、壊れてしまっているようである。

ドキドキ高鳴る胸を、いやそんなことは微塵もなく、気だるげに後をついて行く。

「竹さん文庫に入るかわからないんですけど」

いつからわたしの文庫など出来上がった。
そうか、文庫の自由を守るため立ち上がれ、と。

「文庫本戦争」
「文庫本内乱」

続々発刊。

なわけがあるか。

と自らにツッコミ、ケン君には否定だけしておく。

文庫って。
いや、まあ、これなんですけどね。

スッと、脇に隠していた文庫本を下手に出しながら、

「つまらないものですが」
「まあ、嫌いではない。知らぬうちに入っていたことにしようか」

と目に浮かぶそのままの様子で、この一冊を渡してきたのである。

「内乱」の真っ最中だから、ちょいと遅くなってもいいん?
いいっすよ。まあ、題材とかキャラとか、ちょっとひいちゃうかもしれないですけど、読んでみてください。

感想は。

歯痒い。いや物足りない。
当事者側だからこそ、触れないでもわかってもらえる。
しかし、触れなければその先は見えない、伝わらない。

あともう一歩。

のところで、物語が終わってしまう。
いや、終えてしまう。

その先に何かを見せたり、感じさせたり、想像させたり、しない。

ポツン、と突然答えを出してしまって、チョンと終わらせてしまっているように思ったのである。

きれいに書いている、せいなのかもしれない。

違う、きれいなんかじゃない。
熱くて、臭くて、汚くて。
だからこそ、多数の中にある少数が、少数であれるのではないのか。

少数同士だからとわかりあってゆくことも出来なく。
互いに違う、少数同士として、違う場所でお互いを認め合うにすぎない。

そういうものではないのだろうか。

などと言いたくなるのである。

きれい、ということは読みやすいということである。

「それでも花は咲いていく」

のである。


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