「隙 間」

2011年05月23日(月) 風評?

週に一度の本社訪問であった。

「それでも花は〜」を持ち主であるノブオくん(ケンくんあらため)に返さなければならない。

もちろん、感想のひとつもつけてやらねば、せっかくの好意で貸してくれたことに対して失礼に当たる。

どうでしたか。

わたしは一拍、空をみた。
そしてふたたび視線を下ろすと、相変わらず目だけは愛くるしくクリクリさせる、むさい野郎のノブオくんが、目に入る。

もしこれが、京都は黒髪の乙女であったり凡ちゃんだったりするならば、まことしやか感心満足感激した、とうまく嘘ではないところを取り上げとりなすところであるが。

感想をつけることで、この場合は礼を守るに十分相応しい。

そう判断したのである。

先の感想を有り体に、勤厳実直に、腹をわって伝える。

「またこの人は、ムツカシイこと求めてんだからっ」

頭を掻きながらノブオくんは、ぶうと鳴く。

じゃあ。

「竹さんの今のお勧めで何かないですか」

もっぱら「図書館シリーズ」が今は当たり障りなくお勧めだが、反応が悪い。

いや、それは竹さんらしくない。どんなのが、いいんですか?

ならばと、川上弘美を思い浮かべるが、ノブオくんは川上作品をいくつかもう読んでいる。

「オモチロイ」で言えば、森見登美彦作品だが、今ちょうど読んでいるのが恋文云々な題名なので、それを言ったら、ただノブオくんがわたしをからかってオモチロがるだけである。

ぐいっと飲み込む。

代わりに「ウエッ」と出してみたのが、金原ひとみである。

「これを抵抗なく、むしろ、ここからどうエスカレートしてくのかを楽しみに読めるような、それくらいのディープさがあるやつ」

まぢっすか。
ゆくなら、あれくらいまでいって欲しい。

「あとは?」

ノブオくんが一旦ひいたあと、すぐに持ち直して訊いてくる。

とかく、きれいなものより泥臭かったり、もったりしてたり、もわもわしてたり、がいいね。

角田光代とかはダメですか。
一時期読んだけど、ほら「フリーター文学」とか言われてた頃に。
なんすかそれ。フリーターが家を買うとかの、あれですか。
違う違う。

そうか、それも昔のいっときの話か。
昔のとか記憶を掘り返すのはすっかり苦手になっている。
だからいちいちを掘り返すのはやめよう。

まあ、あれだ。三島より谷崎、て感じだ。
うわぁ、「エロ」ですねぇ。

くわっ、と誰かがこちらに振り向いた気がした。

「こら、誤解を呼ぶだろうが。ちゃんと「ティシズム」とか「チック」をつけないか」
「いいじゃないですか「エロ」だって」

またまた誰かが振り向いた気がした。

たまにしか顔を出さない分、あまり知らない人らに、「わたしはエロ」と誤解されてしまうのは避けなければならないのである。

「よくはないっ」

風評被害だ。
訴えてやる。
ちくしょう。
覚えてろっ。

わたしは、踵を返してノブオくんのもとを去る。

「お勧めがあったら、教えてくださいね」

ようし待ってろよう。
健全でオモチロイのを、勧めてやる。


 < 過去  INDEX  未来 >


竹 [MAIL] [HOMEPAGE]

My追加