週に一度の本社訪問であった。
「それでも花は〜」を持ち主であるノブオくん(ケンくんあらため)に返さなければならない。
もちろん、感想のひとつもつけてやらねば、せっかくの好意で貸してくれたことに対して失礼に当たる。
どうでしたか。
わたしは一拍、空をみた。 そしてふたたび視線を下ろすと、相変わらず目だけは愛くるしくクリクリさせる、むさい野郎のノブオくんが、目に入る。
もしこれが、京都は黒髪の乙女であったり凡ちゃんだったりするならば、まことしやか感心満足感激した、とうまく嘘ではないところを取り上げとりなすところであるが。
感想をつけることで、この場合は礼を守るに十分相応しい。
そう判断したのである。
先の感想を有り体に、勤厳実直に、腹をわって伝える。
「またこの人は、ムツカシイこと求めてんだからっ」
頭を掻きながらノブオくんは、ぶうと鳴く。
じゃあ。
「竹さんの今のお勧めで何かないですか」
もっぱら「図書館シリーズ」が今は当たり障りなくお勧めだが、反応が悪い。
いや、それは竹さんらしくない。どんなのが、いいんですか?
ならばと、川上弘美を思い浮かべるが、ノブオくんは川上作品をいくつかもう読んでいる。
「オモチロイ」で言えば、森見登美彦作品だが、今ちょうど読んでいるのが恋文云々な題名なので、それを言ったら、ただノブオくんがわたしをからかってオモチロがるだけである。
ぐいっと飲み込む。
代わりに「ウエッ」と出してみたのが、金原ひとみである。
「これを抵抗なく、むしろ、ここからどうエスカレートしてくのかを楽しみに読めるような、それくらいのディープさがあるやつ」
まぢっすか。 ゆくなら、あれくらいまでいって欲しい。
「あとは?」
ノブオくんが一旦ひいたあと、すぐに持ち直して訊いてくる。
とかく、きれいなものより泥臭かったり、もったりしてたり、もわもわしてたり、がいいね。
角田光代とかはダメですか。 一時期読んだけど、ほら「フリーター文学」とか言われてた頃に。 なんすかそれ。フリーターが家を買うとかの、あれですか。 違う違う。
そうか、それも昔のいっときの話か。 昔のとか記憶を掘り返すのはすっかり苦手になっている。 だからいちいちを掘り返すのはやめよう。
まあ、あれだ。三島より谷崎、て感じだ。 うわぁ、「エロ」ですねぇ。
くわっ、と誰かがこちらに振り向いた気がした。
「こら、誤解を呼ぶだろうが。ちゃんと「ティシズム」とか「チック」をつけないか」 「いいじゃないですか「エロ」だって」
またまた誰かが振り向いた気がした。
たまにしか顔を出さない分、あまり知らない人らに、「わたしはエロ」と誤解されてしまうのは避けなければならないのである。
「よくはないっ」
風評被害だ。 訴えてやる。 ちくしょう。 覚えてろっ。
わたしは、踵を返してノブオくんのもとを去る。
「お勧めがあったら、教えてくださいね」
ようし待ってろよう。 健全でオモチロイのを、勧めてやる。
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