「隙 間」

2011年06月08日(水) 「図書館危機」

有川浩著「図書館危機」

「こ……れしきのことで騒ぐなバカどもが」

昏睡状態から復活した最初のひと言は、わたしも是非、こう呟きたい。

有川浩の「図書館」シリーズ第三弾である。

ハンカチと、殴りつけても投げつけても大丈夫な何かをお手元に用意して、読んでもらいたい。

徹底して掲げられているテーマである「表現の自由」

大衆の「無関心」が生んだ理不尽な現実。

「守る」ということは「戦う」ことであり、それは「傷付け」「傷付けられ」るということ。

「正義」を語るなら、泥をかぶる「覚悟」がなければならない。

差別や不平等をなくすことを掲げ、様々なメディアに対して理不尽なまでの「規制・検閲」を行う国家行政組織「メディア良化委員会」に対し、図書館における「図書の自由」を守るため組織された地方行政組織「図書隊」

図書隊初の女性図書特殊部隊に抜擢された笠原郁は、実家の近くにある図書館で催される美術館との共同企画展の警備任務に赴く。

メディア良化委員の「検閲」との戦いは、銃火器をもってまさに命懸けの戦いとなっていた。

企画展の目玉は最優秀賞を受賞した「自由」という作品。

メディア良化委員の理不尽な検閲・規制に対する「抵抗」をモチーフにしたものだった。
企画展の主催者側も、苦渋の決断による選考だった。

この作品をやつらは許すわけがない。
必死で「検閲」による「回収」をしにくる。

大規模な戦闘がもはや確定的となったその図書館は、肝心の図書隊組織自体が組織内部自らによって弱体化がなされていた。

「無抵抗主義」を掲げる市民団体と図書館館長によって、武器の持ち込み、武力抵抗はもちろん訓練すらもろくにできない図書隊。

図書隊内部にも、「防衛部」に対して、通常業務を受け持つ「業務部」側の隊員たちによる冷遇差別される体制が出来上がっていた。。

「話ができるまともな相手ならともかく、問答無用で銃撃してくる輩相手に、丸腰でいったい何を守れと?」

防衛支援にやってきた関東図書隊玄田隊長は、呆れ半分、怒り半分で図書館館長をねじ伏せる。

未曾有の戦いを前にして、よもや組織内部にそんな問題がくすぶっていようとは。

図書隊の忘れてはならない出来事「日野の悪夢」が再現されてしまうのか。

「図書の自由を守る」図書隊の象徴が、ついに……。



今回は「放送禁止用語」等に対して取り上げられている話がある。

全国区の人気を誇るタレントのフォトブックで、「床屋」だった祖父を語る部分で「床屋」という表現を「理髪店」「理容院」と直すべきだ、と出版社側の配慮で直したのである。

「祖父は「床屋」だ。誇りを持って、昔からずっと「床屋」だった。「理容院」でも「理髪店」でもなく、「床屋」の祖父を、なぜ言い換えなきゃならないんだ!」

「床屋」という表現のままだと間違いなくメディア良化委員会に「回収」されてしまい、対策や損失を見込んだ結果、一冊が一万を超える高額にならざるをえない。

それでは待ち望む全国のファンの手には届かなくなってしまう。

「床屋」は、ダメだと誰が決めた?

「保母さん」という言葉が「保育士」に置き換えられているこの現実社会にも、思い当たるところがあるだろう。

そして、作中ではこれらの表現の規制はメディア良化委員会によるもののようになっているが、わたしたちの現実社会では、暗黙の了解による「自主規制」によってなされていることが、あとがきで語られている。

疑わしきは黒。反発がありそうならば、使用は避けるべき。

実際のテレビ番組を観ていても、それは感じるだろう。

深夜の時間で流されていた言葉が、七時台だとふせられている。
局などによって違っていたり、また曖昧だったりもする。

なにせ従うべきは「自主規制」という手前みそなのである。

そして、これもあとがきにて告白されているが。

「図書館」シリーズは、フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」にてアニメ化、放映されている。

前巻「図書館内乱」内の聴覚障害を患っている鞠江と小牧のエピソードが、放映には相応しくない、と構成からカットされているのである。

鞠江とのエピソードは、出版社を越えて同じ著者の作品を登場させるなどの、なかなか意味のあるエピソードでもあった。

それでも、である。

DVDには収録されているらしいので、果たして本当にそれに値するのか観てみるのもよいかもしれない。

とかく「不特定多数」が目にする機会があれば、こちらからやり過ぎるほどの配慮をせねばならない場面がある。

ネットで検索してみると、「そんなバカな」と思う「置き換え言葉」が山ほどみつかる。

それをみると、ニュースキャスターの言葉選びに不自然さを覚えていたものが、不承不承ながら頷けてしまうのである。

そんなモヤモヤとは別として、郁と上官の堂上とのヤキモキする恋愛模様も、忘れてはならない。

玄田隊長と「還暦迎えてひとりだったら、俺が迎えにいってやる」と若かりしころ約束を交わしたかつての恋人、今は立場は違えど「表現の自由」を守るため戦い続けている戦友との、惚れ惚れしてしまう繋がり。

守る力のない正義は、他人を巻き込むだけのただの迷惑。
守りたければ、守れるだけの力を養え。


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