「隙 間」

2011年06月15日(水) 朧月夜

朧月夜。
淡く滲んだ月明かりが、ぽっかりと空に浮かんでいます。
それでもきりりとした輪郭に、満ちてしまう寸前のはかない美しさをたたえ、闇の街にやさしい光が降り注いでいるようです。

明け方にまた皆既月蝕によって姿が掻き消されてしまうと知り、今の姿のはかなさ、あやうさが、より一層、感傷を掻き立てられます。

関東以北ではその前に地平に沈んでしまうらしいとのことです。

はかなくはないですか?
さびしくはないですか?

問い掛けることすら、出来ません。

今日は、月に一度の「ノー残業デー」でした。
そんなことを言われても、いつもはその通りにゆかないものでしたが、どうしたことか最近は随分と仕事が落ち着いているのです。

定時ちょっと過ぎに会社を出させてもらい、少し迷ったのですが、有楽町で地下鉄に乗り換えて神保町に向かうことにしました。

喫茶「さぼうる」で、贅沢なまどろみのひとときを。

と言ってもそれは「時間が贅沢」という意味で、さぼうるはとてもご親切なお値段で珈琲のみならずお酒も頂くことができるのです。わたしは完全に珈琲派ですが。

さぼうるは近所に大手出版社さんのビルが集まっているので、業界関係の打ち合わせなどを見かけたりするのです。

お隣のテーブルでは、女性ふたりが「久しぶりー」と再会を喜んでいる姿が。

「ご飯食べた? ここのナポリタン、本当に美味しいから」

と注文したのを聞き、やがて運ばれてきた真っ赤なナポリタンに、はじめは鼻をそしてすぐに目を奪われてしまいました。

食事はお隣の「さぼうる2」でとお店側は分けてあるのですが、こちらでも軽食は頼めるのです。

喫茶店といえば「スパゲティ・ナポリタン」ですよね。

フォークでくるくる巻いて、チュチュ、チュー……ルンッ、と口の回りや洋服の胸元にソースを跳ねさせてしまったり。
そういう染みに限って、後家で服を脱いだときに気が付くものだったりします。
とても魅惑的に見えて、手元の文庫本とそちらのナポリタンとを、わたしの意識はチラチラといったりきたりしてしまいました。

すると片方の女性の携帯が鳴りました。仕事の電話でCMか何かの撮影の手配やアポイントなどをちゃきちゃきとその場でしていました。
働いているときの顔と、友人の前での顔と。
彼女はそこに垣根を設けることがない性質のようでした。

そんな光景が、薄明かるい店内でぼんやりと滲んでゆきます。

「なんか、居心地いいんだよねえ」

隣の女性が「さぼうる」のことをを感慨深く友人にいってました。
本を読むには少し暗いかもしれません。ですが、ほんの少しの暗さが、ひとを居心地よくさせる大事なことなのです。

薄暗い店内から薄闇の朧月の下へ。

どちらもあたたかくやさしい闇でした。


 < 過去  INDEX  未来 >


竹 [MAIL] [HOMEPAGE]

My追加