「隙 間」

2011年06月26日(日) 「図書館革命」

当たり前だと思っていた夜の色は街の色で、
真の夜の色は自然が生み出す闇の色。
星明りを目指すのは、
闇に溶け出た己が輪郭を取り戻すため。
夜が心地よいのは、
周りとの一体になれる気がするから。



有川浩著「図書館革命」

表現による差別区別不平等をなくすために施行された「メディア良化法」
憲法でうたう「思想・表現・言論の自由」を冒さないため、「出版・流通の前はこれに含まない」とし、良化委員会が「相応しくない」としたものはその実行部隊である「良化隊」によって「検閲・回収」が行われてしまう。

一方、国が組織した「良化委員会」による理不尽な検閲・回収行為に対抗すべく、地方行政組織によって「図書隊」を組織し、かろうじて図書館における図書の自由を守ることだけが希望となっていた。

敦賀原子力発電所がテロに襲われる。その手口が小説と同じだとされ、著者である当麻蔵人が「良化委員会」の査問対象となってしまう。
査問とは名ばかりの、罪を認めさせるための拷問行為から当麻を守るべく関東図書隊が護衛・保護にあたることとなった。

班長の堂上以下、小牧、手塚、笠原、柴崎らは、当麻を守りきれるのか。
表現の自由を守れるのか。
本の自由を守れるのか。
国民は、自らの無関心・無関係としてきた過ちに気付けるのか。

有川浩の代名詞ともいえるこの「図書館シリーズ」ですが、熱く燃え、また萌えて身悶えてしまう心地好さは絶好調です。
気になる堂上と笠原の煮え切らない関係は、今回やっと煮詰まります。そして柴崎と手塚の関係もまた。

「有川浩と角川書店は、表現の規制と戦います!」

三省堂書店の陳列台に表明されていました。
なんといいますか、作中にも、「えっ!?」と目玉がこぼれ落ちるくらいに見開かされた言葉をつかわれていたりもしています。

例えば「盲撃ち(めくらうち)」という言葉は、規制対象用語です。
規制といっても現在は公的指針やガイドラインがあるわけでもなく、出版側の自主規制が出版界の暗黙の規制となっているだけなのです。

小説内の病気の症状が実在のものと似ていて、さらにそれが誤解を招く表現がされている、と指摘を受け回収、改訂をした作品もあります。

本作品では「テロ」を取り上げられました。その対象が「原発」という、文庫化された現在との皮肉はさておき、ミステリーなどの殺人・犯罪手法などが対象ともなりうるのです。

あり得ないことではありません。
例えば、テレビで煙草のCMがなくなって当たり前のようになりました。やがてテレビドラマでも煙草の場面はなくなるでしょう。
残酷さを煽らないように、と流血シーンを自制するのではないテレビドラマ界がいったいどうなのかという疑問もあります。

作品内で度々用いられている言葉で「善意の暴走」というのがあります。
当事者ではないものたちが「善意」で「差別だ」「危険だ」と当事者を差し置いて勝手にすすめてゆくことです。

あなたたちを思ってやってあげているんです。

大きなお世話のありがた迷惑ですね。

あなたは国内でも大変少数の罹患者で、理解者がいなくてとても辛い思いをされてきたでしょう。
さあ、わたしたちが「障害者手帳」を発行するよう訴えてここに持ってきました。
もう、普通のひとと同じように働かなくてもよいのです!

そういってわたしのところに人間がやってきたら、高々の鼻をペンチで挟み潰して、うっとりした黒目を漂白剤で洗浄してやります。

誰が頼んだ?

とその口をホッチキスでバチンバチン止めてあげながら言うでしょう。

とあるヘルパー協会の理事の方にかつて言われた言葉です。

「誰の為に?」を教科書だけで知った知識で、間違いがないかのようにやらないでください。
現場の専門家や当事者の声を、ちゃんと聞いてやってください。

初めて立ち上がろうとする我が子を、危ないからと床に押さえつけて立たせない親はいません。
しかし社会は、危ないからと押さえつける集団です。

どうか明日が、まごころの言葉がひとつずつでも増えていますように。


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