2011年08月05日(金) |
怒りや悔しさではなく、タンゴなのだそれは |
吐き気がするほどの眠たさが伴っていた日々が、結果的にそれ相応には報われないところに落ちた。
「根気があるね」 根なんか張ってないさ。 「よく気持ちが折れないね」 芯があるから折れるのさ。
宿はとった。 チケットもとった。 足も確保した。
「もういっちょいくぞー」 「た、こ、や、き!」 「イチニサン、ダー!」 「レッツゴー」
晩御飯は、二十四時間営業のおそらく台東区一安いだろう格安のお弁当屋さんで買って帰ります。 鶯谷駅まで回って、寛永寺のそばをコツコツ靴音を鳴らせて家へと向かうのです。
「やっと丸善に行けるやん」
古墳氏が漏らす。 先々週あたりから言っていたのだが、わたしたちは休みがなかったのである。 丸善に何の文具を買いに行くのかわからないが、店は大概、遅くても夜八時か九時に閉まってしまうから、せっせと仕事中のわたしたちは到底、間に合わない。
鶯谷から家へ向かう途中にあるカヤバ珈琲店は、深夜零時頃バータイムで開いています。 その前を通過するわたしと、窓ガラス越しに、店を復活させた若き店長さん、というよりもマスターと、チラチラ目が合うようになりました。マスターはEXILEのNAOKIさんに似ています。
「こんな時間やん。帰らんでええの。弁当屋、閉まってまうよ」
て、それより電車なくならんかの方が重要やね。 古墳氏が自分も終電の心配が必要なのである。 二十四時間営業ですが、弁当屋さんが待っているので、帰りましょう。そろってようやく会社を出る。
「また丸善に行けんかった」
そんな日が続いていたのである。 ようやく丸善に行けるというのも、夜九時まで開いている店に限っての話である。 かくいうわたしも、三省堂に行きそびれている。なかなか調子が乗り切らないのは、それが原因であろう。 読み差しの小川洋子もリトル・アリョーヒンの唇よろしく、はじめから開いていなかったかの如く閉ざされたままである。
「in your position set!!」 「stand-up,together」 「stand-up,fly away」 「僕らは生きているか?」 「命無駄にしてないか?」
言問通りに面した窓の外を通り過ぎるわたしと、カウンターでお酒を作ったり珈琲を淹れたりしながら接客しているマスターですから、はじめは目が合ってもすぐにそらしました。 次に、目が合ったことに気付くとそれを互いに、あ、と間ができるようになりました。 その次は、あ、気付いているな、と感じつつも互いにそちらを見ないようになったのです。 今度は通り過ぎるだけではなく、珈琲をいただいてみようと思います。
「なんかスゴく、悔しいんだけどさ」
渚くんの上司であるハジメさんが、会議の後に顛末を噛み締めるように漏らした。 つまり、はじめからあまりあてにはしてませんでした、そちらはそちらでこの後から頑張ってください、と言われたようなものなのであった。 古墳氏もまた悔しさを浮かばせて、顔は険しく俯いていた。
「なんか、テンション変わらんで大人やねえ」
俺はダメやん。 ふたりになってから古墳氏が言ったのである。 ゴールにいかに早く、雄々しく駆け込んでみせるか、競うのを考えているのとは違うのである。 自分をいかにゴールまでもたせるかを考えているわたしは、切れたり落ちたりしたときは本当にそこで終わってしまい、復活に相当の期間が必要になるのである。
運命に抗うまでもない。 それは果てしなく強く吹く風。 一瞬のうちにその身を根こそぎさらってゆく。 風は強く吹いている。
お盆休みの旅先を決めました。もはや現実逃避の勢いに身を任せて諸々の手配をしたようなものですが。 もしかしたら三つ足の鴉が導いてくれるかもしれません。 その先は高天原か中津国か、はたまた根の国か、といったところでしょうか。
「根の国」ならぬ「根(の)津」に暮らしていますが、根津神社はおよそ千九百年前にヤマトタケルが東征の際に創建したといわれ、今回の旅先とご縁があったりするのです。 出立の前にお参りしておいたほうがよいかもしれません。
「Only thing to do is jump over the moon」 「Moo with me! Come on sir, moo with me! Moo! Mooo! MOOO! MOOOOOO!」
わたしとて感情はある。 しかし、今回は怒りや悔しさを感じている皆さんとは温度差があるのは否めないのである。それに拘らねばならない理由がわたしにはなく、ただ全体がまとまってくれればよいだけなのである。 そしてわたしの身体がもっていればよい。
出向の管理者である一茶さんがわたしの勤務時間の多さをみて、
「身体壊さないことに気を付けて、大丈夫なようにね?」と声をかけてくれたのである。 「これでも今月は少なめなんですが。だから大丈夫です」
八重時間で少なめとは言ってはいけないのだが仕方がなく、一茶さんも苦笑うしかないのである。
「rent」のcompanyが肩を組んで耳元で歌いあげる。
take me baby or leave me!
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