2011年08月17日(水) |
熊野行路 第二夜「道ヲゆくモノ」 |
朝六時半、起床。 七時、ホテルにて朝食。 八時半、勝浦駅前発、那智山行きバスに乗車。 九時、那智山着。
当初は、七時半発のバスに乗る予定でした。 一時間に一本のバスに間に合わせることが出来なかったのです。
朝食はバスの車内で、買っといたパンで済ませるつもりでした。
なぜホテルで朝食なんぞとってしまったのか……?
目覚めの珈琲くらい、 いいじゃない! そうです、 これから行く 「大雲取越」に、 びびってましたよ! (開き直り)
元々、トーストやサラダなどの軽い朝食付きのホテルでしたが、食べなくても大して損得勘定にならないお値段で泊まってます。
しかしアットホームに、
「朝食も食べますか?」
据え膳食わぬは武士の恥!
「これから歩くんでしょう? しっかり体力つけてかなくっちゃ」 はい、いただきます。
パクパク、モグモグ。
ごっそさんでした!
結果、出発を一時間遅らせることになったのです。 そしてバスに乗って那智山に到着。
参道の石段を上り、那智大社と隣接する青岸渡寺との間にある謙虚に口を開けていたのは……。
「大雲取越」の入口!
目の前にして、込み上げる感慨にしばしとらわれてしまいました。
同時に沸き上がる、
恐怖心……。
どうせ、
途中折り返しなわけだし。
参詣は明日だし。
しかも、
帰りのバスは一本しかないし。
逃したら野宿だし。
「大雲取越」は小口というところまでで、小口には「自然の家」という宿泊施設があるだけです。 キャンプ場もあるけれど、テント等の装備なんか用意していません。
さらに小口まで人里はありません。
つまり……。
途中での棄権は不可! さらにルートの半分が携帯電話圏外!
ブルブルブル……。 ガクガクガク……。 ((((゜д゜;))))
怪我しても助けを呼べません。 警告が脳裏に鮮やかに浮かびます。
「二名以上での通行をお願いしています」
( ̄□ ̄;)!!
さて。 まずは一.二キロ先の「那智高原公園」までです。
那智の滝と同じ高さの滑り台があり、また絶好の景色が眺められるご家族で楽しめる公園です。
そこまでの石段(以後、もはやただ敷いてあるだけ)を上りはじめて、すぐに後悔しはじめました。
わたしは、汗対策にドライメッシュのTシャツに茂み対策の長袖シャツを羽織り(袖は勿論捲った状態)、普段と大して変わらぬ服装でした。
せめて靴はと、姉と義兄からもらったウォーキングシューズ。
これが本当に助かった!
靴だけに限らず、完全なトレッキングの準備と格好で挑むべきだったのです。
何よりも必要不可欠なのが、
「杖」!
これがないと、ムリ、です。
すぐに気付いて道端をよおく探して手頃な枝を見つけました。
チャララ、チャッチャラ〜♪ 竹は丈夫な杖を見つけた! HPが一歩につき10マイナスから7マイナスになった!
いや、 すでに膝は大爆笑。 太ももはひきつり。 全身疲労、目は虚ろ。
高原公園まで行ったら、 マジで、考えよう……。
この先に行ったら、
もう、
引き返せない……。
そもそも「大雲取越」は西国三十三所観音巡礼の発展に伴って派生した古道である。
斎藤茂吉、南方熊楠らの残した証言に、
「大雲・小雲取越」は「死出の山路」と呼ばれ、歩いていると、亡くなったはずの肉親や知人に出会う、と言われている。
また「ダル」(餓鬼)にとり憑かれ、餓えから一歩も動けなくなる者や急な脳貧血を起こし、やはり行き倒れてしまう者がある、と言われている。
熊楠については、
私もダルに実際にとり憑かれたことがある。 昏倒した際、たまたま背嚢が枕がわりに頭を守り、岩に頭を砕かずにすんだ。里人の教えに従い必ず食糧を携え、その兆しあるときは少し食ってその防ぎとした。
と言っているのである。
標高八百メートル前後の三つの峠を上り降り繰り返す全歩行距離十四.五キロの険しいルートである。
目の前が開けた!
この整備された階段を上れば「那智高原公園」だ!
ヒィ、ヤッホゥ〜! ああっ、女神さまっ! 文化って、素晴らしい! 生きてるって、素晴らしい!
東屋に……人影?
明らかに古道歩きの格好をした夫婦の姿。
同じ古道を歩く者同士、すれ違うときは必ず言葉を、少なくとも挨拶は交わし会います。
「こんにちは。あっついですねぇ」
たしかに御夫婦でしたが、失礼ながら思っていたよりも結構ご高齢のお二人でした。
大門坂と那智大社を回り終えて、今からほかに行かれるのだろうと思い、さりげなく聞いてみると。
「大雲取越」を途中まで行かれると言うのです。
「あなたも行かれるの?」
奥様に聞かれて思わず「はい」と答えてしまいました。
答えたかからにはもう、引き返せない……。
この、お調子者! 見栄っ張り!
「じゃあお先にいくわね」とご主人とリュックを背負い直し歩いてゆきます。 奥様は足がよろしくないのか痛むのか、ゆっくり、少し引き摺るように一歩ずつ。 ご主人は、少し先を歩いては振り返って待ち、の繰り返し。
素敵やぁ。 それでも夫婦で古道を歩こう、 だなんて……。
自販機等、飲み物をちゃんと手に入れられるのは、ここがほぼ「最後」になります。
休憩所の喫茶店の自販機でスポーツドリンクを二本確保し、お店のおかあさんから情報収集。
七時間かかるのは妥当だけど、今時分、普通のスタート時刻より一時間遅いらしい。
沢は先に行けば沢山あるが、小口までの中間地点の休憩所に自販機が一台だけあるらしい。
てことは、
「早い者勝ち」てこと? 既に出遅れてるってこと? ( ̄□ ̄;)!!
「あなた、杖ないの? それなら持ってきなさいな」
店に置いてある竹の杖をくれました。
軽い! 丈夫! もう大丈夫!
だいたいの古道の出入口に「御自由にお使いください」と杖置場があります。
大門坂にもあったのですが、そこはバスでスルーしてきました。 そして「大雲取越」の入口には、杖置場はなかったのです。
「向こうで適当に置いてきていいからね!」 「いってまいります!」 (`_´)ゞ
公園から先の古道入口のところに、先ほどのご夫婦がいました。
とはいえ、同行というわけにはゆきません。
「果てて倒れてたら、そのときにお会いしましょう! お二人もお気をつけて!」 「はいはい、気を付けてね」
奥様と旦那さまは手を振って見送ってくれました。
まだ背中が見えているくらいの距離で、背後から奥様の声がっ!
「出たわよ〜!」
???
何が?
「親子の鹿が、いたのよ。見えた〜?」
見てません。 足元だけしか。 見る余裕ありません。
本当に、以後も周りの景色を楽しみながら歩けるところなんて、ほとんど、ありませんでした。
上りも下りも、 急なとこでも、 ゴツゴツの石を、
「とりあえず置いてみました」的な足元なのです。
ゼィハァ……。 ヒィフゥ……。
うおっと! あぎゃ……。 うえぇぇぇ……。 まぢかっ……。 おいおいおい……。 ふみぃ……。 トゥー、トゥルットゥトゥ♪
歩き始めて二時間強! 舟見茶屋跡に到着!
東屋があったので、ベンチに腰掛けて休憩……。
なんて素晴らしい眺め! リュックの底の方を漁りはじめ……。
ガサゴソガサゴソ。 ビリビリリ……。
さ・ん・ま! こ・ん・ぶ!
お! す! し!
昨日「徐福寿司」でお持ち帰りした「さんま寿司」と「昆布巻き」です!
酢で〆めた甘さが、 もう、最高です!
本当は、ここから四キロ先にある地蔵茶屋跡で昼食の予定でした。
しかしもう止められません。
一心不乱に。
食う。
食う。
食う!
パクパク、モグモグ。 ムシャムシャ、ゴックン。 ……っぷふぁ!
……。
何か文句ありますか? 精も根も尽き果てて。 ダル(餓鬼)にとり憑かれて死ねと?
食ってる姿は、きっとダルそのものだったことでしょう。
腹がすっかりくちくなり、ふと漏れた言葉が。
……帰ろうかな。 (ボソッ)
入口でお別れしてきたご夫婦は、この舟見茶屋跡まできたら引き返す、といっていました。
今引き返したら、絶対に遭遇してしまふ! それはできない!
弁当ガラをリュックに押し込んで。
再出発!
しかし、またすぐに……。
ゼィハァ……。 ヒィフゥ……。
うおっと! あぎゃ……。 うえぇぇぇ……。 まぢかっ……。 おいおいおい……。 ふみぃ……。 トゥー、トゥルットゥトゥ♪
台風の被害で、途中倒木で道を通せんぼしているのをまたいでくぐって乗り越えて。
道とは名ばかりの、沢みたいに水が流れ落ちている道を、石を渡って上ってゆき。
何度挫けそうになったことか。
その度に浮かぶ、救いの言葉。
「無事に帰ってきてくださいね」
ああっ、女神さまっ! きっと必ず、無事に帰って見せます!
ガイドマップにも本当に書いてある「亡者の出会い」付近を通過。
もはやわたし自身が亡者同然になっていたので、残念ながら出会うことはありませんでした。
そして唯一の自販機がある地蔵茶屋跡休憩所に到着!
「ハーイ。コニチワ」
外国人の若者がひとり、先に東屋で休憩していました。
「ハ、ハーイ」
ロバート(わたしが勝手につけた彼の名前)はひとりで、田辺から中辺路(なかへち)を歩いてきたそうです。
「四日メ、デス」
四日!
なんだかもう、頭部が金色に輝いて見えます!
彼は金髪でした。
お互い逆方向から来ているので、道の情報交換です。
「トテーモ、タイヘン、デシタ」 「こっちも、アップダウン、トテーモ、タイヘン」 「……」
HAHAHA--!! (揃って)
なんと素晴らしい魂の交流! 多くの言葉は要りません!
「ソレジャ、イキマス」 「グッド・ラック!」 「ユー・トゥー!」
爽やかにソウル・フレンドを手を振って送り出し、そしていよいよ唯一の自販機へ!
スポーツドリンクは全部売り切れ、しかし!
お茶は大丈夫!
チャリン。 ピッ。 ガコン!
お茶を手に入れました! 一本じゃ足りない! さあ二本目!
とその指の向かう先で点灯していた、
「売切」
の文字……。
はわわわわ……。 O(><;)(;><)O
最後の一本だったのです。
ここまででスポーツドリンク二本と水筒の水をきれいに飲み干していました。
お茶一本じゃ足りません。 小屋の脇にある水道から空のボトルと水筒に水を補給してから、次の入口脇にあるお地蔵様に手を合わせ、
出発です。
ロバートがタイヘンと言っていたのが、よおく、わかりました。
急な下りがずっと続いていたのです。 つまり、逆は休むところが全くないまま、延々と上りなのです。
しかも足場は凸凹で最悪。
わたしも実は右足を捻り、体重がかかる下りは、かなり辛かったのです。
シクシクシク。 痛いよぉ。
そして最後に、まさかの事故が!
「この先、不通。迂回路こちら」
台風の被害が……。
、ついに!
小口に到着!
予定よりも、結果的に一時間早く着けたのです!
町だ! 民家だ! 車だぁ!
バスの時間までは二時間もあります。 しかし、喫茶店など休めるところがないのです。
フラフラ〜と、
「自然の家」に。
宿泊の予約も連絡もしてない、通りすがりの飛び込みです。
「そこらへん好きに休んでな!」
客でもないのに中にあげてくれようと! (T^T)
そこまでは甘えられません! 庭先のテラステーブルをお借りして、自販機で買った……。
缶コーヒーを一気飲み!
ぷはぁ〜! この為に生きてるようなもんだわさ!
次回予告。
ついに目的の最終地へ足を踏み入れることになったが、そこは「終わりの地」であり「始まりの地」でもあった。
果たして「始まりの地」が意味するものは何なのか? 安らぎの中に忘れ去られた記憶とはいったい……。
次回、
「再生。そして忘却のカナタに」
この次もぉ、 サービス、サービス♪
|