2011年08月19日(金) |
熊野行路 朔夜「キヲクの闇の中、光をツカムもの」 |
ここに記さなければ、おそらく誰の目にも触れることなく、何もなかったこととして、わたしは平然と日常の中に戻ってゆくでしょう。
しかし、例えそうだとしても、わたしには、ここに記しておかなければならないという、
「誇り」と「意地」
というものがあります。
延々長々と続く不可解な報告書にウンザリされながらも、ここまでお付き合いいただいた方々には、たいへん感謝いたしております。
願わくば、もう少しだけ……。 いえ、今回までだけで構いません。 どうか、わたしの我が儘にお付き合い頂けませんでしょうか?
あれは旅の二日目、「大雲取越」から帰ってきた夜のことです――。
チクチク チクチク
(--;)……
マメが、
痛ぇ! ( ̄□ ̄;)
歩行距離およそ十四.五キロ! 歩行時間およそ七時間半! 熊野古道「大雲取越」(健脚者向け)!
を踏破したその代償として、靴が履き潰れてしまいました……。
マイ・靴よ! お前の犠牲は無駄にはしない! (T-T)
靴の犠牲だけにととまらず、わたしの足もただで済まなかったのです。
たわわに実った、
マメ。 マメ。 マメ……。
両小指、親指と人差し指の付け根に、
「ぷっくり」
と出来ていたのです。
足の指すべてを使って歩いたなんて久し振りでした。
これはせめてマメ以外の、筋肉的なダメージは翌日に残さないようにケアしなければなりません。
それには温泉! それしかない!
しかし、ホテルに温泉は付いていなかったのです。
時間は夜八時――。
温泉なんか開いてるわけが……。 わけが……。
(-_☆) ……あった。
勝浦温泉は港に、夜十時まで無料開放された足湯があるのです。
あ、し、ゆ! 三三ヘ(*--)ノ
マメの痛みも忘れてまっしぐら、です。 夜の漁港を眼前に小屋は、ぼんやり明かりが灯っていました。
しかし人の姿はありませんでした……。
気兼ねなく、
ちゃぽっ (´ー`)あせあせ(飛び散る汗) 〜〜〜〜〜
「あ゛……」 (;ーoー;)
「あ゛ぁ〜〜……」 く(;´д`)ゝ
だだだ、誰だっ!? いま、 「おやじ」 っていったやつ!
……。
(つд`;)チャプ
(*´д`;*)チャプ
許しちゃう。 ( ̄◇ ̄;)
すっかり極楽お気楽気分でホテルに戻り、あらためてシャワーを浴びました。
浴衣でさらにくつろぐひととき……。
ほげぇ〜……。
……。
……。
(早送り)
……。
……。
……はっ。
とりあえず無事帰還した連絡でも送っとこう。
……。
Σ( ̄□ ̄)!
ない!
ケータイが、ないっ!
いやいやいや。 あるって、ホラッ、ないっ! あるってばさ、こっちに……。
ないっ!
ホテルの電話から掛けて携帯を鳴らしてみます。
受話器「トゥルルルル」 部屋内「……(無音)」
……( ̄□ ̄;)!!
わたしのケータイは普段から常に……。
バイブレーション!
音なんか鳴らない!
(プツッ……)
「留守番電話サービスセンターに……」
しかも!
呼び出し十五秒で留守電チェンジ!
なんてナイスな設定!
……。
……。
……ダメじゃん。
えーっと……。
φ(--;)
(-_- )ノ⌒○
ε=ヾ(*~▽~)ノ
┓( ̄∇ ̄;)┏
(((\( ̄ー ̄)/)))
(ノ-"-)ノ~┻━┻
ひと通りの現実逃避行動で気を落ち着かせ……。
足湯だ! Σ( ̄□ ̄)!
あすこしか、ないっ! ε=┌( `_)┘
しかし時間は既に十時を回ってます。
走れ、メロス! 己を信じて待つ友のために!
待っていろ、 セリヌンティウス〜!
ハァハァハァハァ
心の臓が激しく脈打ち、 胸が張り裂けそうだ……っ。
友よ、やはり無理だったのだっ 許せっ……!
……。
ハッ(゜Д゜;≡;゜Д゜)
待っていてくれ、友よ……!
〜〜(;´Д`)ノ
明かりなどとうに消え、 漆黒にたたずむ小屋の前に、 崩折れそうな膝を、 おぼつかない手で支えて立つ。
やがて慣れてきたのか、 かつての安らぎの場所が、 ぼんやりと……。
もちろん、無人。
それでも湯だけはかけ流しなので、チャプチャプと哀愁を奏でていました。
オーーッ、ノォーーッ! ∠( ̄□ ̄;)ゞ
灯りを持ってくるのを忘れたのです。 普段は携帯を灯り代わりにするので、そのつもりでいつも通り左ポケットに手を伸ばすと……。
(スカッ)
当然、手応えがあるはずもなく、左手は空振りするばかり。
ならば右のポケットだ……。
(#ノ-"-)ノ~~~┻━┻ー(長音記号2)☆
あるわけなかろうもん!
諦めて、先刻座っていた辺りを、オオサンショウウオのように這って手探りでまさぐっても手応えはなし。
これは……。
確実に……。
やってもうたぁぁぁ〜〜!
きっともう、誰かに持ってかれたに違いない……。 O(><;)(;><)O
旅に出る度にデジカメが壊れたり、携帯が壊れたり……。
旅なんか、大っっっ……。
大っっっ……?
(チカッ、チカッ)
頭を両手で抱え、決定的な次の言葉を口に出してしまう寸前!
湯がかからない普通の腰掛けのその片隅で……。
不在着信の点滅する光がっ!
大っっっ……好きだぁぁぁ〜!
きっと明かりを消しにきた管理のおっちゃん(わたしのなかでは、この場合なぜか「おっちゃん」が必定です)が、よけて置いてくれたに違いありません!
友よ、すまぬ! わたしは一度、諦めてしまった!
殴れっ! でなくば、気が済まぬのだっ! さあっ……。
(/o\)ピタッ(○=(-_-○
出来るわけがなかろう! ┐('〜`;)┌
友よっ! おうっ! ε==(;o;)/\(^o^)))
携帯電話は、無事、この手に帰ってきたのです。
真っ暗な中、かけ流しのあふれてゆく音を聞きながら、
やっほほ♪ やっほほ♪
♪(゜ロ゜屮)屮♪ ♪щ(щ“ロ“)♪
歓喜の舞い……。
熊野の「熊」は「隈」の字である。 また、隠れる・籠(こも)るの意味がある。
「異境の地」「死者の地」として熊野の山地は信仰され、そこに詣るには、生者は儀式的に死なねばならず、それが「禊(みそぎ)」として川を渡ってそれをする、ということは先に述べた。
禊によって一度死者となり、熊野を詣でた後は、また生者として霊場(霊域)を出て、日常の世界へと戻ってゆくのである。
「熊野は生まれ変わりの地」
といわれる所以のひとつである。
「伊勢に七度熊野に三度、どちらが欠けても片参り」
と古来よりうたわれている言葉のその先に、「東海道中膝栗毛」においては次のように続けられている。
「愛宕さま(芝・愛宕神社)には月参り」
愛宕さまじゃなく、神田明神じゃダメですか……? (--;)
それならほぼ毎月、くだまきに行って……。
くだまきにくるんじゃないよっ! ヽ(゜o`;)ヾ(--;)
熊野から「生まれ変わ」って帰ったあかつきには、それはあらためます。 ( ̄Λ ̄)ゞ
そんな罰当たりな態度は、いくら八百万の神々といえども寛大に許してくれる神など数えるほどしかいないでしょう。
ましてやここ熊野の神はスサノオノミコトです。 感情に素直な、それでいてその表現が不器用で癇癪もちで。
「こいつ、あらためる気がないな?」 φ(。_。)エート...
「これでよしっ」 ( ´艸`)プププッ
「えっ? 席が、とれてない?」 (゜〇゜;)
帰りのバスの座席表には違う人の名前が。
どうしようどうしよう (´Д`;ヽ≡/;´Д`)/
「ざまあみろぅ〜!」 ヽ(∇⌒ヽ)(ノ⌒∇)ノ
そうです。 きっとささやかながら、スサノオさんの嫌がらせ……もとい、警告に違いなかったのです。
あんたのせいかっ!? だったらなんだっ!? (`_)乂(_´)
腹が立つっ! 八雲立つっ! ( ̄^ ̄)ヘヘン...(;==)ソウデスカ
解説します。
古事記に、出雲に帰ってきたスサノオさんが詠んだとされている日本最初の歌、と言われている歌です。
八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を
「八雲立つ」はこのことから「出雲」の枕詞となっています。
出雲の現在でいう須賀にやって来た時、そこの素晴らしい景色と己の清々しい気分に、
「よっしゃ、ここに新居、建てるべや!」
と、櫛稲田姫としっぽり籠るための宮を建てたのです。
さあ、出発直前になって手違いで帰りのバス座席の予約が取れてなかったことが判明し、オロオロしたのですが。
さすが「ツンデレ」のスサノオさんです。
「空席がありますから、こちらの席でよければ……」
よいもワルいもないって! ε===(ノ;゜ο゜)ノ
てか、はやく言えって……。 ...(ーー;)
こうして、危機的状況に幾度となく遭遇しつつも、わたしは無事に東京の地に再び帰ってくることができました。
一見、自らの落ち度が招いた間抜けな事故のように見えますが、それでも危機は危機です。
「神は乗り越えられる試練しか与えない」
と言うひとがいます。
果たして、神が与えたものと自らが与えたものとの違いは、いったいどこに?
あまつさえ、自らが与えたそのこと自体が、神によるものだとしたら……。
わたしは、神などという運命を委ねるにはあまりにもこころもとない存在は、信用してません。
しかし、完全には否めないのです。
それよりも、「人」という存在こそが、この世の中で最も人そのもに試練を与えることを知っています。
願わくば、その「人」という存在こそがまた、最大の救いの力ともなることを、人類が決して見失わないように。
速玉大社の川原家横丁で、ゆっくりお話してくれた土産物屋のお母さん。 那智山の大雲取越入口で親切に声を掛けてくれた素敵なご夫婦。 地蔵茶屋跡で出会い、すれ違いに握手して別れたライアン(仮名)。 客でもないのに招き入れてくれた小口「自然の家」のお父さん。 バスまでの時間、やいのやいのと会話に引きずり込んで楽しませてくれた喫茶店「果樹園」のママさんと常連客のおっちゃんら皆さん。
ただ通り過ぎるだけだったかもしれない道を立ち止まらせ、こんなにも明るく輝かせてくれた人々との出会いに感謝します。
例え、それぞれの人生の中でいつかは消えゆく記憶の一片だとしても――。
|