「隙 間」

2011年09月03日(土) ジンジンと

恥の多い生涯を
送って来ました。
自分には、
人間の生活というものが、
見当つかないのです。

(太宰治「人間失格」より)



舌の根が、チクチクとしたのです。

閻魔大王が青鬼を従えて、わたしの舌を品定めしているような錯覚に陥ります。

いいや、違います。

原因は、ポテトチップスでした。

わたしは、スナック菓子は映画館でしか食べません。
それなのに、誕生日を前にして、なぜか買って帰ってしまったのです。

ポテトチップスの「プレミアム」です。

給料日でもないのに、「プレミアム」です。

しかしわたしには、それを見とがめて注意する教頭先生もいません。

だから、そのバチが当たったのでしょう。

しみたり、痛みはなかったのです。
だから早めに歯医者に行きました。誕生日当日の夕方にしか、予約がとれませんでした。

痛みがないので、悪化しないように飲食をすればよいだけです。

当日。

再来週に迫った一大イベント

篠原美也子ワンマンライヴ
「花の名前」

に、数年ぶりに行く気になったすず子さんと昼食をとることになってました。

ブランク期間の篠原さんのアルバムを、いくつか聴いておいてもらった方がよいに違いないからです。

ついでなので、熊野のお土産も渡しました。

「「クミコ」さんって、誰?」
「知らん」

和歌山県でよく見かける「クミコの幸せ」という、梅果汁をたっぷり使ったグミです。

「私が梅を、南紅梅が特に好きって知ってるなんて、さすが」
「……も、モチロンさ」

知りませんでした。
ただ土産物屋で目が合って、なぜか離せなくて、買って帰っとくか、と買った物でした。

本能がわたしを救ってくれたのかもしれません。

しかし、

モチロンジャナイカ、何年ノツキアイニナルト、思ッテルノサ。
アハ、アハ、アハハ……。

あからさまなアヤシイわたしの口調に、すぐにバレてしまいました。

だから何、ということも勿論ありません。
そういえば、各人の好きな食べ物とかを、わたしはあまり知らないことに今さらながら気が付きました。

今度そういう「今さら」な話も、集まったときにしましょう。

それにしても、何故かわたしは「よさこい」への熱い想いばかりをすず子さんに話して、それ以外の話をしてませんでした。

不覚です。

しかしわたしの熱い想いは、なかなかうまく伝えることが出来なかった気がしていました。

高知の「よさこい祭り」と原宿表参道の「スーパーよさこい」のオフィシャルDVDを買うか迷っている、という話をしたとき、

「買っちゃえば、私だって貸して貰えるじゃん」

おおっ。

嬉しさと共に、ひとつの後悔が。

篠原さんのアルバムの他に、秋葉原のDVDを紛れ込ませとこうか迷い、やめてしまっていたのです。

ひょっとしたら名友のように、頭のなかを「メイビー、メイビー」と感染させることができたのかもしれません。

ああ、ここで恥を明かしてしまいました。
そうなれば、ついで、です。

わたしは今日の日を迎えるにあたり、遠大な計画を練っていたのです。

ひとり豪勢に家焼肉という、自虐と背徳と甘美な悦楽の夜を送ろうと、色々取り寄せていました。
そのことをこっそり、すず子さんに打ち明けました。

大したことじゃない。

その後休日出勤だというすず子さんはすぐに地下鉄へ向かいました。

触れず当たらず慰めず。

素敵な友です。

さて、わたしは甘くみていました。

夕方の歯の治療をです。

歯の詰め物は一度の治療で終わるとは思ってませんでしたが、さほど響くことはないだろうと。

治療が終わり、「固いものはあまりこちら側で噛まないようにね」との注意に、「ふわぁい」とまだ麻酔が効いた口で返事を。

麻酔が効いていたせいなのかもしれません。
わたしの理性のタガも麻痺してしまっていました。

また、恥を明かします。

歯医者の帰りに、わたしは、日暮里駅に向かっていました。

「ショコラティエ
イナムラショウゾウ」

です。

本当に、美味しいのです。
チョコレート専門の、カフェも併設されたお店なのですが。

ひと口、

「うんまぁい」

と笑みと幸せがこぼれ落ちるほど、美味しいのです。

しっかりチョコ。
このチョコの海に溺れたい。

しかしくどいわけでなく、次から次へと口へ運びたくなる衝動をこらえながら、ひと口ひと口を口中に染み渡らせながら、名残惜しげに食すのが大変なくらい美味しいのです。

そんなチョコケーキを、買って帰ったのです。

さも「誰かと食べる」かのように二切れ。

恥を恥で上塗りするような行為かもしれません。
しかし、それなりの見栄を張らなければ、わたしに何があるのでしょうか。

昼食以降、もちろん何も食べていませんでした。
空腹の極みになった状態で、ケモノの内臓を喰らい、満たしてゆくことこそが、歪んだ至福をも満たす手段のつもりだったのです。

しかし。

夢はやがていつか覚めるときがくるように、麻酔もさらに確実に、しかも必ず早い時期に覚めてゆくものです。

冷凍されていた内臓肉を流水で解凍して待っていると、肉汁が柔らかくなりすっかり溶けた頃、わたしの奥歯もすっかり解けてしまっていたのです。

ジンジンと疼きだしたのです。

何かを食べるどころではありませんでした。
それでも、やがてはおさまるはず。

翌日は日曜日だから、朝はどうにでもなります。そう思って深夜まで待っていました。

グルルと腹が鳴く度に、わたしは切なくなりました。

わたしの遠大な計画とやらいう愚かな企みは成し遂げられることがなくなったのです。

翌日は無事、一日遅れにはなりましたが、どちらも食べることが出来ました。
しかし、まさにこれは、恥の上に恥を塗り重ねたようなものです。

それでも。

至福は至福として感じることが出来たのです。

人間、まだまだ捨てたものではないのかもしれません。

四周目の始まりです。

こんなわたしに祝いの言葉をくれた素晴らしき皆さんには、まだまだ長くお付き合いいただきたく思います。

深く、感謝。


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