「竹さんしかこの話通じひん、わかってくれへん、と思って」
久方ぶりにわが本社に顔を出すと、宮子さんが嬉々としてやって来たのである。
ほら、見て。
パカリと携帯を開いて、わたしの鼻先に突き出す。
「なあ?」と宮子さん。 「おお?」とわたし。
「アプリみつけてん」へへん、と宮子さん。 「すごいじゃなイカ」とわたし。
待受画面では「侵略イカ娘」が、ビシッとわたしを指差していたのである。 少年チャンピオンの読者だったわたしぐらいしか、たしかにこの手の話は通じないだろう。
「アニメがまた始まってん」 「すごいじゃなイカ」 「HDの整理せな、録画できひん。もういっぱいいっぱいやねん」 「ダメじゃなイカ」 「なあ。バリエーション少なない?」 「……すいませんでゲソ」
宮子さんはマニアな方で、少年ジャンプをはじめ、様々な漫画やアニメや特撮ものなど、ゲソの先でも足りないほど多岐に渡る趣向の持ち主なのである。
わたしが突然、年長者の宮子さんに無礼な口調で答えはじめて戸惑いをあらわにしていた周りが、「ゲソ」の語尾でぽかんとなり、どうやらそちらの方の会話だとわかって納得の顔をする。
そんでな、そんでな?
宮子さんが俯きやや加減で、わたしをうかがう。
「マブヤー。知っとる?」 「琉神、ですか?」 「そう、そうやねん! 今度、TOKYOーMXで放映されんねんて!」
ああ、HDがいっぱいで録画できひんし、どうしよう。
周りはすっかり「?」の顔で、わたしを見ている。 説明しよう。
「琉神マブヤー」とは、沖縄県のご当地ヒーローである。 地域活性のひとつとして、地元の名産・文化・情報・方言を巧みに物語に取り込み県外へ発信し、そして新しい世代にも伝えてゆく試みから生まれた。
2000年代に入ってから各地域のご当地ヒーローが注目されだし、全国ネットのテレビ番組で秋田県の「超神ネイガー」がそのローカル制作とは思われないほどの質の高さで紹介されたことがある。
そのときに「琉神マブヤー」も、「まだまだいる、注目のご当地ヒーロー!」としてほかのヒーローたちと併せて、駆け足で紹介されていたのである。
イベントでは、そこらのタレントやアイドルよりもよっぽど人が集まり熱狂するほどの人気ぶりであったらしい。
それが五六年の時を経て東京で第一話から放映されるのである。
わたし自身、宮子さんに言われるまでまったく思い出すこともなく過ごしてきたが、言われればなんだか、いったいどのようなものなのか観てみたくなる。
沖縄のマブヤーだけではなく、秋田のネイガーなどほかのご当地ヒーローらは今現在どうなっているのかも気になってくるのである。
故郷千葉県のヒーローは何がいるのか? 東京は?
東映のヒーローらが目まぐるしく堂々とアクションしているところに、地元に根強く密着できるご当地ヒーローなど難しいかもしれない。
番組編成期の度に、不況によって出演者や番組内容やらが質を問われ続けている。
安くて看板になって視聴者を惹き付ける出演者となると、なかなか個人を特定できない。
コンビやグループなら、五人いようが「ひとグループ」で扱いやすく、グループ側にとっても、代わりがいればメンバーの構成は誰だろうと多少は融通がきく。
さらに再放送の番組ならば実績もわかり、放送枠の隙間を埋めやすいこともある。 年齢による出演時間制限の枠も、さほど気にしなくて済む。
もちろん、できるならば裏との出演者重複は避けねばならないが。
そこに、東京ローカルのMXとはいえ、既出の沖縄ご当地ヒーロー番組である。
業界のフトコロの厳しさを、勝手に解釈しながらあれこれ想像してみるのも、テレビの見方のひとつである。
もはや発言に責任を持てない妄想ではあるが……。
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