「隙 間」

2011年10月31日(月) 名前のない週末

金曜の定時過ぎに、月曜の朝に欲しい図面の打合せに呼び出されたのである。

金曜は夜七時から我がBIMチームの結成会が予定されていたのである。

たしかに「夕方に打合せさせてください。時間は当日連絡しますので」とは、いわれていた。

常識の範囲で「夕方」となると、四時から五時くらいまでであろう、いやあるべきだと。

まあ、常識通りですまない業界で、そんなあまちっょろい考えは通用しない。
だから、覚悟はしていたのである。

火田さんに事情を説明し、結成会に遅れるか、ややもするとゆけないかもしれない、と伝える。

打合せ相手は徒歩十分のところの親会社である。
定時までに打合せれば、七時からの結成会には十分間に合うだろうと火田さんもとらえていたのであった。

そして六時を過ぎた頃、ようやく連絡がきたのである。

「月曜朝に欲しい図面の修正依頼だそうです」

土日にやれってこと?
まあ、そういうことでしょう。

「私も打合せにいくわ」

ぐげ。

出向していたこともあるが、わたしのそういった社内の飲み会の不参加率は九割であったので、逃げ出さないよう首根っこをぐわしと掴まれたような気持ちになる。

あ、いや、火田さんがこられるとおおごとにとられやしませんか。
そうかしら、大丈夫よ。
竹さんひとりだと、

「はいはい、と余計な作業まで引き受けてきそうだもの」

同じ業界の方から見れば、内容はちょちょいのちょい、の容易いものであると予想はついていた。

三日はかかる内容を夜十一時に「明日の朝八時までに修正願います」と送り付けられて、急遽徹夜でやらねばならないのが普通というのに比べれば。

であるから打合せ後に会社に戻り、土日は出ないで済ませてしまおうと思っていたのである。

飲み会に出て、土日に会社に出てくるのは、なんか違う。

しかし、火田さんの打合せへの同席で、その雲行きが怪しくなったのである。
打合せ終了後、その足でわたしを飲み会の会場へ連れてくつもりであるらしい。

いや、受け取った資料を社に持って帰らなきゃならないし。
そうね、じゃあ向こうで待ってるから早くね。

結局、休日出勤確定である。

土曜は昼から歯科医が、日曜は田丸さんの大会が午前から昼過ぎにかけて、ある。

歯科医にいって、その後から出社しよう。日曜に田丸さんの応援にゆくかゆけるかは、それ次第である。

ちくちくと土曜日に出社して、夜更けまでかかって。

ああ、こんなんでもしも同居人がいたら、きっといなくなってしまうだろう、などと妄想してみる。

子供がいる家族がいる、をおそらくわたしは、すぐに「錦の御旗」に掲げてしまうだろう。

それに揺らぐ己がなくならない限り、わたしはそれらをもってはならないと思っているのである。

自分のせいにするだけで精一杯なのに、そこに誰かのせいなど、わたしは背負いきれない。

「どうして起こしてくれなかったんだよぉ!」

日曜の目覚めたときには、早くも逆のことを叫んでいたのである。言われる相手がいないのは明白なのにである。

いや、ちゃんと七時半に一度起きたのである。

後楽園ホールで九時から始まるらしいので、何時に出ればよいか再計算しようとしたのを覚えている。
しかし、たかだか一時間弱で着ける、という、しかもようく行き馴れた場所であるにもかかわらず、計算ができなかったのである。

今から支度して一時間後に出るとして、さらに一時間後に着くとして。
七時半の二時間後は九時半だと、小学生にもわかる計算である。

「計算できんじゃあないか」

そんなばかな、と驚嘆の言葉を吐いたのを最後に、次に気がついたときはもう十二時になっていたのである。

急いで出る。
決勝まで残っていれば、間に合うだろう。
残っているにちがいない。
なにせ田丸さんのペアは、そのクラスのファイナリスト常連組らしいし、さらに先月は準優勝されているのだ。

電車で向かうのと徒歩で向かうのがほぼ同じ時間であり、歩いた方が自分の足で急げる分、早い。

「あら、ちょうど決勝がはじまるところですよ」

受付婦人に、ホホホと教えられる。

「席もほとんど残ってないけれど、いいかしら?」

わたしは歩々々と後退り、後楽園ホールを後にしたのである。

どうか決勝の今、ライトを浴びて田丸さんペアが生き生きと舞い踊っていることを祈って。

後で聞くと、なんと見事に

優勝!!

されたとのことであった。
チャンピオンである。
競技ダンスのレベルであるクラスの優位はよくわからないが、Aクラスにも昇格らしい。

これでますます、万が一わたしがとちくるって役所広司の甘木映画のようになってしまったら面白いことになってしまう。

ぞんがい、気を付けるようにしよう。


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