2011年12月23日(金) |
save the last dance for me? |
気がつけば新年まであと七日間ばかり。
目の前にクリスマス三連休が待ち受けていました。
今年は本当に、色々ありました。 とくに十月からこちら、その中でも十二月はとてもとても色々なことがありました。
わが社の設計グループは、少人数ながらも、集合住宅、一般施設、BIM(+一般施設)の三つのチームに別れています。
わたしと大分県は火田さん筆頭のBIMチームの所属になります。
各チーム両手で数えると指が充分余るくらいの人数で、社員にかんしてはE・Tの右手だけで間に合ってしまいます。
つまりは派遣や外注さんにきてもらって、なんとかやりくりして日々の業務をこなしているのです。
自転車どころか一輪車操業の状態です。
集合住宅チームは、少しきな臭い様子ではありました。 しかしわがBIMチームはまさに大炎上状態だったので、対岸の火と用心される側だったのです。
こちらが沈静化しだした頃、川風に火の粉が混じりはじめていたのが露見したのです。
「こちらの業務を、とめます」
火田さんが大分県とわたしだけを打合せテーブルの隅っこの方に呼んで、伏せ目で宣言しました。
沈静化したとはいえ、乳飲み子がいようが、新婚で旦那さまを食事を用意して待ってなければなかろうが、申し訳ないが皆さん終電で帰ってからにしてもらえないか、という状況が多少改善されはじめたくらいだったのです。
大分県の仕事はこれまでの経緯で、先方にそんな事情を話せるはずがなく。
「竹さんの方の仕事をとめて、みんなであちらのヘルプに入ってもらっていいかしら?」
ですよね。 そうなりますよね。 まあ先方には、ちょいとスンマセンて言えば、まあわかってくれると思うので。
「年末までらしいから。全部受けないで、調整して」
そんなわけで、繁忙度は多少の鎮静はありつつも延期されてしまったのです。
すったもんだでわたしが内容を相談する集合住宅チームの担当者は、四郎くんでした。
わたしが前にいた会社から出向してきている知った顔です。 なので、
「やだよう、そこまでやりたかぁないよ」
と平気の平左衛門で「軽ぅく」言えてしまいます。 それがもし大分県だったら、遠慮してそんなことは言いづらいでしょう。
そういう意味では、わたしは「あ、かるいスタッフ」(a right staff)かもしれません。
しかし、それでも忙しいのは変わりません。
大森の田丸さんが、木曜日に最後の勤務を終えてしまいます。 だから、是が非でもその日に行って、お疲れ様でした、と伝える予定でした。
「今日は悪いけれど、医者に行かなければならないから七時になったら帰るから」
四郎くんに伝え、わたしの主だったスタッフらに宣言していたのです。
ああ、わたしの生来の「間の悪さ」が、やはりそれを許してはくれなかったのです。
「あれ、なんでまだいるの?」
四郎くんが八時過ぎに、まだまだ帰る気配がないわたしに気がついたのです。
「うん、帰れへんねん」 「医者じゃなかったの?」 「……行かれへんねや」 「別に行ってもらっててもよかったんだけど」
割り振っていた新人の作業が、ことのほか進んでいなったのです。 四郎くんに、ここまでは進めてあるから、となど言えないくらいです。
四郎くんがよくとも、スタッフの取りまとめ役のわたしがよくありません。
「しゃあないねん」 「ま、よくあることだけど」
四郎くんは騒がず、周りに広がらぬよう、慰めの言葉をくれました。
ああ、今日は行けませんとか、わざわざ電話するわけにもゆかないし。
わたしはいつも、予約をしているわけではないのです。
木曜の夜にだいたい二週間毎に行きますから、とわかってもらっている前提で、行く直前に「これから行きます」と電話するだけなのです。
時刻が八時半を過ぎました。 閉院の時間です。
はあ。 田丸さんに何も言わずにお別れになってしまった。
それなら電話してしまいなさい。
と思われるでしょうが、そこは看護師と患者という立場を守ることに意地を保たなければなりません。
(ブルルル、ブルルル)
携帯が振動したのです。
「どうしたの、来なかったじゃん」
イ氏からでした。
「田丸さん最後だったんだよ? 話さないでいいのかい?」
あ、ちょっと待って、とわたしの返事を待たず、
「おーい、田丸さーん。いるー?」
いや、そんな、わざわざ、心の準備がまだ、
「竹さんだよー、おーい」
イ氏の遠い声が受話器の向こうから聞こえてくる。
電話で話すなどはじめてのことです。 何を話せばよいのか動転したままで、「お疲れ様でした」しか口にしていなかったかもしれません。
ああ、デートのひとつでも誘ってみればよかったかもしれません。
田丸さんはなんと、業界主催のビジュアル大賞三位を受賞していたのです。 その副賞としてメーカーのモデルもつとめることになるらしいのです。
「息抜きに教室に来てくださいね、待ってますから」
息抜きではなく、骨抜きです。
江古田駅のホームでダンス教室の窓を見上げる役所広司さん(shall we dance?)の姿が脳裏に浮かびますが、せめて周防監督の側の道を行きたいものです。
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