2012年01月12日(木) |
「続・森崎書店の日々」 |
八木沢里志著「続・森崎書店の日々」
神保町の古書店が舞台の日常を描く物語。
貴子は叔父のサトルが店主の森崎書店でかつて一時期を過ごした。
人生に、自分に迷ったとき、温かく見守り、大切なひとやものやことを気付かせてくれたかけがえのない時間。
サトルの妻・桃子や、大切なひととなり付き合うことになった和田さんや、常連客たちとのまたささやかだが愛しい日々が、続いていた。
そんな愛しい日々に、ある日石が投げ込まれ、ひと際波立ってゆく。
和田さんが昔の彼女と会っていた。
さらに、
桃子さんのガンが再発。
森崎書店の日々に救われ今がある貴子は、叔父のサトルに、桃子に、そしてこれまでとこれからの日々のために、何ができるのだろうか。
前回作に引き続き、神保町の空気がたっぷり漂った居心地のよい作品である。
作品内に登場する「すぼうる」という店は、神保町駅裏に実在する「さぼうる」をモデルにしていることは間違いない。
平日遅くまで開いていて、ワインやウヰスキーなどをたしなむことができる。
勿論、名物であるフレッシュジュースやコーヒーもいただけるので、下戸のわたしでも十分くつろぐことができるのである。
食事は隣の「さぼうる2」でということになるのだが、こちらの「さぼうる」でもいただける「ナポリタン」が、とても美味いらしい。
橙色の灯りにてらてらと艶かしく輝く姿態と香ばしい香りに、隣のテーブル席であるはずのわたしが、目と鼻を奪われてしまったのだから間違いない。
しかもなかなかボリュームがあったのである。
残念ながらまだ食べてはいない。
しかし美味いのは間違いない。 まことにまだ食べていないのが残念である。
会社帰りに「さぼうる」で文庫を読みながら待ち合わせ、と決め込みたいものである。
さて。
木曜は大森である。 田丸さんのあとを引き継いだ方がわたしとは「はじめまして」であったので、無駄な話をする余裕がない。
決まり一辺倒の確認項目にレ点をつけてゆき、たまに調子を書き込む。
じゃあ、と隣室のイ氏の元へとわたしを案内するのもどこか初々しく、わたしまで少し初々しくなりかける。
「やあやあ」
イ氏の馴れ馴れしく砕けた口調に、わたしのせっかくの初々しさも消し飛んでしまう。
言われる前に椅子を引き、ギシリと鳴らして座るのもいつものことである。
「それは面白かっただろう」
わたしが「続・森崎書店」を読んだところだと話すと、イ氏がしたり顔になる。
ふと名を出した作品を誰かが知っているというのは、なかなか嬉しいことである。 しかし、できれば父と変わらぬ年頃の紳士にではなく、聡明快活なお嬢さんと、共有したいものである。
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