「隙 間」

2012年01月21日(土) ゴヤ顔

上野の西洋美術館で開催されている「ゴヤ展」にいったのである。

「ミスター。近所なのに行ったりしないの?」

東丸さんにパチクリされたのである。

順を追って説明しよう。

東丸さんとは、仕事を手伝っていただいている女性の方で、関西人である。

当然のごとく「阪神ファン」であり、わたしが「巨人ファン」であることを知ってから、わたしを「ミスター」と呼ぶようになっていた。

当初は、敬称を親しみを込めて「ミスター」と読んでいるのかと思っていたのである。

「ミスター。ちょっと」

東丸さんがわたし呼ぶとき、それに気付いた周囲は、「ミスター」が誰のことなのか一瞬空を見、探してみる。

「なんでしょうか」とわたしが返事すると、「ミスター」とはかけ離れたわたしのことだとわかり、ポカンとしたものだった。

「巨人ファンなんやろ。なら、最大の敬意を払って「ミスター・ジャイアンツ」の「ミスター」でいいでしょ」
「なら、東丸さんのことはこれから「とラッキー」さんと呼びましょうか?」

「しばいたろか、こんニャロ」

といったなんとも歯切れよいやり取りがあった後、東丸さんがわたしを呼ぶときに限って定着したのである。

「ゴヤ展は行ってみたいと思っていてですね」
「じゃあ、なんでいかんの?」
「安いチケットが見つかれば行くかもしれません」
「ケチやなぁ」

どうせわたしはケチである。

ゴヤといえば「黒のシリーズ」だか、真っ黒の背景に巨人がおぞましく描かれてるやつがある。

とはいえ、わたしはべつにゴヤに詳しいわけではない。
今回の作品展の広告に使われている「マハ」と「我が子を食らうサトゥルヌス」くらいしか知らないのである。

今回、サトゥルヌスが見られるだろうか。

そんな話をしていた矢先、上野のチケットショップで千円の入場券を見つけたのである。

えい、行こう。

土曜は終日起きられず、結局部屋に引きこもったままになってしまっていた。
日曜は、と奮起したが出てこれたのは昼三時過ぎ。

閉館までは、もはや二時間ほどの猶予しかない。
いや二時間も、ある。

こういう勢いでもなければ、美術館などそうそう行かない。

いざ、上野の森へ。

そして十分後に到着。

それから一時間経たずに回り終えてしまった。

サトゥルヌスはやはりなかったのである。

マハたちも一応ちゃんと観たが、目玉の「着衣のマハ」は、さして感慨もなくさっさと通り過ぎてすましたのである。
「勿体ない。ほかの何を観に行ったんだか」と思われるかもしれない。

しかし、ただ女が寝ている絵を観て、何の感性を働かせろというのか。

その他の風刺を描いたスケッチらの方が、わたしはじっくり観て回ったのである。

この勿体なさ加減。

「どや(ゴヤ)!」

これが言いたかった。

次の土日は、きちんと休日を味わえることを祈ろう。


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