月が変わった。 そして社長もかわったのである。
親会社にいわば栄転なのだろうがした助さんにかわって新しく我らがボスになったのは、やはり親会社からきたハチさんである。
「やあやあ、その節は大変申し訳ないことをしてしまって」
わたしの顔を見るなり、あたりはばかることなく、右手を上げて快活に第一声である。
いえいえそんな、とわたしも右手を上げて、顔の前で左右に振る。
わたしが親会社の役員面接を三日後に控え、突然全ての面接を白紙に戻されてしまったときの、面接官のひとりだった方である。
この親しみやすさとはべつに、仕事にシビアな方だと噂に聞き、皆、この先を思い案じている。
楽になるのか。
厳しくなるのか。
そのどちらも互いを併せ持っていることは、理解されることであろう。
楽な仕事で利益をあげるのは厳しい。 楽に利益をあげる仕事をするのは、また厳しい。
皆、まずはどういう態度で接すればよいか、戸惑う。
なにせ、親会社の仕事しかしてない我々の、発注元、お客様、の偉い方だったのである。
管理職クラスの火田さんなどはついつい畏縮恐縮し、仕事の報告のときに思わず、
「弊社は……」 「おいおい、僕はもう、客じゃないんだから」
とハチさんに苦笑いされてしまったほどである。
そんなハチさんが、わたしに個人的な知己があるように話しかけているものだから、火田さんはパチクリものである。
「ご家族かご親戚かが、役員にいるのかと思った」
斯く斯く然々とネタ明かしをすると、
「なんだよ、ひとりひとりのここまでの経緯なんて、わたしゃ知らないよぉ」
とようやく理解したようであった。
わたしとて今のところに流れてきた経緯など、前社長の格さんくらいにしか話した覚えがない。
ともあれ、新社長のハチさんの下、我が社は変わらず進むのか、それともやはり変わるのか、未知数の期待である。
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