2012年02月29日(水) |
「妖怪アパートの優雅な日常 その七」 |
香月日輪著「妖怪アパートの優雅な日常 その七」
事故で両親を失い天涯孤独となった稲葉夕士は、自立した人生を送るために商業高校に通い、将来は公務員を目指そうと決めた。
ひょんなことから下宿することになった「寿荘」は近所でも「妖怪アパート」と呼ばれていたが、何を隠そう正真正銘の「妖怪アパート」だった。
幼児虐待で母に殺され、死してもまた怨念と化した母に殺され続ける男の子の霊や、小料理屋を開くのが夢だったがバラバラに惨殺されてしまった手首だけの霊や、祓い師や古道具屋や画家などとても怪しいが人間である住人たちに取り囲まれて暮らす夕士。
彼らと過ごす時間は、両親を亡くした夕士にとって、常識非常識にとらわれず自分で考え、判断し、そしてそれがもし間違いならば諭してもらえるかけがえのない時間であった。
高校二年の夕士は自分の進路を決めていたはずだった。
簿記会計の資格をとり会計士になるか、公務員をめざすか。
「周りにあわせて、慌てて大人にならなくてもいい」
少しでも早く自立し、他人に迷惑や世話をかけずにすむようにと思っている夕士に、アパートの大人たちはいう。
手首だけの霊、るり子さんの絶品料理をつまに。
そう。
本作品のわたしの最大の楽しみは、高校生が魔法書から召喚した使い魔や召喚獣を駆使して勧善徴悪をなしたり、たくましく大人に成長してゆく姿を見守ったりすることなどではない。
るり子さんの、まさに「手料理」を、読み味わうことなのである。
ああ。
腹が減った。
東京タワーが、消灯した。
これが高層ビルのラウンジで、優雅にブランデーのグラスを傾けながら、ならば格好もつこうが、幸いにも冷たい海風が吹きすさぶ品川の高層ビルの足元である。
ああ。
あったかい味噌汁に、季節の野菜の天ぷらに、ふっくらツヤツヤの白ご飯。
ことに、なぜか、パセリの天ぷらが、喰いたい。
ああ。 たまらない。
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