熊本から長崎へ向かう高速道路の最後になるサービスエリア。
パーキングエリアならばあともうふたつほどあったのだが、パーキングエリアだと自販機がメインになってしまう。
フードコートやレストランでこそ、ご当地グルメを食したいものである。
しかし、いけない。
やはり「お八つ」としての「熊本ラーメン」では、小腹がしくしくと飢えを訴えはじめたのである。
渋滞の気配もニュースも、ない。 ならば途中のサービスエリアにちょくちょく寄っても問題はない。
そういえば、ソフトクリームを食べ損ねていたのである。
熊本城で天守閣をふたつ堪能し、しばし涼と休憩を取ろうとしたのである。 なかなかの好天で、まさに、ソフトクリーム日和だったのである。
しかし、ジェラートやカップアイスは見かけども、ソフトクリームが見当たらない。
城外も回りたく、昼食のことも考えなければならない。
土産物屋から出てくるひとらが手にしてるのは、皆、ジェラートばかりだったのである。
武士は食わねど高楊枝。
わたしが食いたいのは「ソフトクリーム」だったのである。
わたしの胃袋も、咽喉も、舌も、そろってすっかり「ソフトクリーム」になっていたのである。
そこに、ジェラートやらカップアイスやらが入り込むつもりも、油断も隙もないのである。
そうしてすっかりソフトクリーム腹になりきっていたまま、ついにそれを満たす機会なくラーメンをすすり、熊本を後にしてきていたのである。
高速道路のサービスエリアとくれば、ソフトクリームに困ることはない。
おお。 塩バニラソフトクリーム。
隣に名産である何樫という果物を使ったソフトクリームがあったのだが、もはやわたしの眼には入らない。
ソフトクリームといえば「バニラ」である。
そして「塩」こそが「本来の甘味」を際立たせるのである。
であるから、我が家では、
スイカに塩。 目玉焼きにも塩。
なのである。 これだけは、譲れない。
ちょくちょくサービスエリアに寄りながら、日も暮れてちょうどよい時刻に、車中泊予定の金立に着いた。
レストランが閉店してしまう前に食事を済ませなければならない。
鹿児島の霧島で黒豚を、宮崎の高千穂ではチキン南蛮を、熊本では熊本ラーメンを食した。
熊本の馬刺は、実は帰りの福岡でリベンジできるかもしれない。熊本の有名店が店を福岡に出しているのである。
宮崎のチキン南蛮は、「ムネ肉派」と「モモ肉派」があるらしいが、高千穂の店は「ムネ肉派」の甘酢ソースという馴染みのあるチキン南蛮であった。
「モモ肉」のチキン南蛮は、どうやら宮崎県の南部に多いらしい。
しかし、今、目の前のメニュー写真に写っているチキン南蛮がある。
タルタルソースが乗っている。
その隣には、長崎名物「トルコライス」が並んでいたのである。 「トルコライス」は、明日長崎に着いてからのお楽しみにしていたのだが、目の前にしてみると、なかなかの誘惑である。
視線をぐいとそらし、誘惑と戦ってみる。 その視線の先に、「シシリアンライス」なるものが飛び込んできたのである。
「トルコ」に「シシリアン」である。
「シシリアン」が、黒スーツでマシンガンを片手に葉巻をくゆらせて、わたしをサングラス越しに見ている。
わたしの胃袋はすでに蜂の巣にされていた。
簡単に説明すると、熱々のライスの上に冷や々々のシーザーサラダのようなものがどどんと乗せられていて、わしゃ々々々とかき混ぜてから食べるのである。
これは、美味である。
スプーンが止まらない。
止まらない勢いに、わたしはサジを投げることにした。
本来ならば、ようく咀嚼し、味わい、「くうぅ」だのと吠えて堪能するところなのだが、スプーンを運ぶ手が止まらないのである。
もはやひと噛みふた噛みの後ごっくん、そしてすでにもう次が口中に運び込まれている次第である。 ちょっとした交通渋滞である。
ややもすれば飲み込むのすら待たずに押し入ろうとする。
ようやくひと心地ついてきて、じんわり味わおうと思った頃には時すでに遅し。
盛られていたはずの皿が、ピカピカと白く明るく光っていたのである。
カイ、カン。
許されるならば、おかわりをしたい。
いやしかし、それはダンディズムにそぐわない。
ごちそうになったな。
紙ナプキンで乱暴に口の周りをぬぐい、それをこれまた雑にクシュクシュと丸めて皿の上に転がす。 するとシニカルな微笑みをたたえ、わたしは席を立つことに成功したのである。
しかし、次の追っ手が、間髪を入れずにわたしの目の前に現れたのである。
閉店間際のベーカリーコーナーで、メロンパン二個セットの安売りが始まっていたのである。
薄みどりに果汁を彷彿とさせる衣が、艶かしく、甘美なまでにたわわになっている。
レディが微笑んでいるのを袖にするのは、男の風上にも置けない。
さかえのレナさんほどではないが、メロンパンはわたしの好物でもある。
わたしは比較的スマートにそのメロンパンたちを腕に抱き締め、キャッシュを払ったのであった。
これは夜食、もしくは明日のおめざであると言い聞かせたのもつかの間、車に戻った瞬間、ガサガサと袋から取り出し、パクりと。
うまぁい。
サービスエリアの駐車場で、施設側の窓ガラスは既に目隠し済みである。
存分に、むさぼる。
吸いとられた唾液をうめるように途中水を飲みながら、あっという間である。
思っていたよりも涼しく、ぶるっと用をもよおしてきたので車をおりる。 お土産とスナックコーナーはまだ開いているので、ひともまだまだ多い。
用を足して出てきたときだった。
油断していた。
やおら、わたしは声をかけられたのである。
「あのう、すみません」
コールマンのウエストバッグのベルトを、よいしょと両手でずりあげて絞め直そうとしていたところだったのである。
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