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公園とベンチ 4 2006年09月28日(木)
彼女は空手の大会が近づくと、その準備や練習で部活が忙しくなり、公園に来るのも少なくなってきた。その分ぼくたちは時々日曜日に公園で待ち合わせをしていた。制服ではなく普段着の彼女は他の中学生に比べると少しだけ大人びていた。ぼくより3つも年下のはずの彼女が眩しかった。
10代のころの3才の年の差というのは相当なもので、ましてや高校生のぼくが中学生の女の子と付き合っているということに、最初は多少の気恥ずかしさがあった。だから公園によく行く仲間以外には秘密にしていた。
ぼくたちは日曜に会うときはよく街に出た。 日曜ならぼくも彼女も街で知り合いに会う確立も少ないと思ったからだ。 街に出るといっても高校生と中学生のぼくたちが喫茶店に入るわけでもなく、映画を見るでもなく、ただ街の中をふたりで歩くだけのデートだった。街の中央にある長いアーケードを歩き、アーケードを抜けるとバス通りを歩き、市役所を左に曲がりレンガの舗道を歩き、人通りの多い川沿いの市場を歩き、洋服屋さんの並ぶ商店街を歩き、たまに本屋により雑誌のページをペラペラめくりながら同じページをふたりで見たり、そして夕方になるとやっぱりあの公園に戻った。
そんなふたりだけの時間を共に過ごしてる内に、ぼくは初めて会った時に見た彼女のあの表情をいつしか忘れていた。いや、忘れたのではなく、いつの間にか胸の引出しの奥の方にしまい込んでしまったのだ。ぼくと一緒にいるときの彼女の笑顔が本当の姿だと無理やり自分を納得させ、しまい込んだ引出しを開けるのが怖くて、それから目をそらしていたのだ。
両手ですくった砂が少しずつ指の隙間から落ちていくように、ぼくと彼女の掌いっぱいに溜まった感情の砂はその小さすぎる掌には入りきれず少しづつこぼれ落ち始めていた。
つづく。
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