アパートの裏庭に、もともと植えられていたその木。 引っ越してきた頃には、枝を剪定されていて、植物の名前などに 全く疎いわたし達夫婦には、その木が何の木なのか不明だったし、 問題でもなかった。 葉っぱが大きくて、枯れ葉がガサガサするねというだけだった。
ところが、引っ越してきてから2度目の初夏を迎えた今年、その 木は実をつけた。 それは、枇杷の木だったのだ。 山形出身のわたしにとって、枇杷というものはまったく身近に無 い代物だったから、枇杷を食べたことすら無い。 ましてや、実がなっているところを間近に見ることなど、ほとん どなかった。 いや、そういえば、上京した頃に住んでいた町の駅のホームの横 に、枇杷の木があった。 従妹から、それは枇杷だよと教えられ、ふ〜んと言ったきりだ。
あれから、30年以上経って、また枇杷の木に遭遇するなんて。 それも、自分の住んでいる部屋の裏だなんて。
自分で植えたものではなく、大家さんのものなわけで。 たわわに実っていても、食べる習慣を持たないままだったわたし は食指が動かない。 大家さんがとるのかなあ、大家さんの娘さんである、隣の家の奥 さんがとるのかなあ、などと毎日考えていると、昨日あたりから なにやらカラスが増えたような気がする。 今朝は、ちゃっかり枇杷の実を咥えて飛んでいく姿を目撃した。
もったいないのか、それとも、木の実は鳥達の為にあるものか。
隣の家の屋根の上と、アパート周りの電線や電柱の上に、カラス が増えたことには間違いないのだ。
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