カタルシス
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2003年11月08日(土)  言葉の灰 

朝のラジオでコメンテーターが使った言葉

「この話は数年前から塩漬けになっていたので〜」

初めて聞いた言い回しだったが 聞いた瞬間に「なるほど」と思いニヤリとした

要は「放置されていた」という意味の言葉だが 「凍結していて」とか「眠っていて」という言い回しより 生々しくシニカルな響きを持つ 時間と共に腐臭を放ち 放っておいたことが情況を悪化させている というニュアンスを感じさせた 塩辛く色もニオイも変わってしまったような話題には 誰だって触れたくはない

「塩漬け」と聞いて私が想像したのは「首」だった 古来 旅先や戦場で死んだ者は その首を落とし桶に塩漬けにして故郷や家族の元に届けられる 名のある武将の場合は首見聞のために敵陣幹部の前に運ばれた きっと醗酵し変質し見るに耐えぬ状態だったろうが 冷凍技術がまだない時代にはそれが一番の保存法だったのだ

私の好きな十四代将軍徳川家茂も病死した遠征先の大阪から塩漬けになって江戸に戻されている 死後だいたい一ヶ月 棺桶は二重にも三重にもされて城内に運ばれたそうだが どれほど厳重にしてみても ひと月分の臭いは抑えきれなかったろうと想像して ものの憐れに切なくなった

「塩漬け」のイメージはそんな感じ
生々しさと
皮肉さと
そこはかとない憐愍と

『言葉の灰』スプリングベル/鈴木ユウキ


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