2008年08月29日(金) |
二重スパイ の危険な恋 |
「 恋愛では矛盾が生じる。
二人の人間がひとつになり、しかも、それぞれのままでもいる 」
エーリッヒ・フロム ( アメリカの心理学者 )
In love the paradox occurs that two beings become one and yet remain two.
Erich Fromm
いくら愛し合う二人でも、それぞれ別の存在であることに変わりはない。
相手が 「 本当はどういう人間なのか 」 さえ、知らずに恋することもある。
韓国の合同捜査本部が、北朝鮮の女性工作員 ウォン・ジョンファ 被告 と、交際相手の韓国陸軍大尉 らを、国家保安法違反で逮捕した。
彼女の実父、継父も、北朝鮮の国家安全保衛部 ( 秘密警察 ) に所属する工作員で、実父は1974年に韓国に潜入したが、射殺されている。
北朝鮮が、韓国へ亡命する 「 脱北者 」 の中に工作員を潜入させる手口は昔からあり、拉致、暗殺、破壊行為などのスパイ活動が行われてきた。
2003年の韓国映画 『 二重スパイ 』 では、北朝鮮の工作員が偽装亡命し、韓国の情報部に潜入、活動する様子が、スリリングに描かれている。
今回の逮捕劇で、映画さながらの出来事が現実に存在することを、改めて思い知らされ、衝撃を受けた人も少なくないだろう。
ウォン・ジョンファ の任務は、韓国軍の将兵たちに色仕掛けで接近し、軍の機密情報や、脱北者の居所などを探ることにあったという。
ところが、一人の将校と本気の恋に落ち、彼を毒殺する使命が果たせなくなり、その後も、ことごとく任務に失敗する有様となった。
将校も、途中から彼女がスパイであると気付きつつ、惚れた弱みで別れることができずに、次々と情報を漏洩する始末である。
まさしく映画のような 「 禁じられた悲恋 」 だが、そこに イケメン の男女を思い浮かべるのは、少し現実的でないかもしれない。
女性に不自由しない イケメン なら、そのような女性に手を出したとしても、正体を知ったうえで交際を続ける可能性は低いだろう。
女性スパイの狙いからみて、標的に選ばれるのは、「 女性にモテたことがなく、誘えば舞い上がってしまうタイプ 」 であるとみて間違いない。
そのほうが作戦の成功率も高いし、正体がバレても、彼女を手放したくない一心で、通報されない可能性が高い。
ウォン・ジョンファ も、美女かどうかはともかく、北朝鮮で亜鉛を奪って逃げようとした 「 非国民 」 だから、国家への忠誠心が厚いタイプではない。
敵国の男に惚れてしまい、使命を放棄するようでは、「 二重スパイ 」 というよりも、「 二流スパイ 」 と呼んだほうが的確だろう。
女性に不慣れな軍人と、素人レベルの未熟なスパイによる “ 映画みたいには格好よくない恋 ”だが、やはり、その結末は悲劇的なものになる。
朝鮮半島の南北分断さえなければ、この男女が互いに出会うことも、恋に落ちることも、罪を犯すこともなかっただろう。
すべては 「 運命の悪戯 」 だが、この事件による波紋は、今後の脱北者に対する受け容れや、処遇の仕方に大きな影響を与える可能性が高い。
命がけで逃げてきた脱北者に、人道的支援を与えようとしても、実はスパイで 「 既に脱北した者を危険に晒す 」 のではないかという危惧が拭えない。
彼女は失敗したが、日本で 「 お見合い 」 し、結婚を企てた形跡もあって、そうなると、対岸の火事と見過ごせる問題でもなさそうだ。
特に日本の場合は、スパイの侵入と暗躍を妨げる厳格な法規制に乏しく、諜報活動の拠点にされる危険が大きいので、有効な対策が求められる。
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