○プラシーヴォ○
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2001年05月04日(金) |
おばあちゃんは殺してない |
「やっぱりなあ…あれがあかんかったんやろなあ… あれのせいで、死んでしもたようなもんやなあ…」
祖父の通夜の準備で 大勢の人間がバタバタと動き回る中、 ベッドの上に腰掛けていた 祖母が、ひっそりと呟いた。
それを聞いていたのは、たまたま母だけだった
だけど、 母は忙しかったし、あまり気にとめてなかった。
葬儀も終わり、とりあえず落ち着いてから 母は、ふと祖母に尋ねた。 あの時の言葉の意味。
祖母によると、
祖父は死ぬ前日、とてもひどい咳をしていたらしい。
毎日毎日、祖父と喧嘩ばかりしていた祖母は、 その日もいつものように
「うるさいから、早く風邪薬でも買ってきて飲んで さっさと静かにしてくれ」
と冷たく言い放った。
祖父はその通り、風邪薬を買ってきて飲んだ。
ひとビン全部。
いつも祖母とは違う部屋で寝ていた祖父が、 その風邪薬を飲んだ夜は 祖母のベッドの隣の通路に 座布団を3〜4枚ひいてその上で寝た。
「風邪ひくし、歩くのに邪魔だから ちゃんとベッドで寝なさい!」 と祖母が声を荒げても、 祖父はニッコリ笑って動こうとしなかった。
死ぬのが分かってたんだ。 最期は祖母のそばにいたかったんだ。
祖父はきっと自殺したんじゃない。
豪傑で、畑の世話が楽しくて 何より大事な大事な祖母を置いて一人で逝くなんて とてもじゃないけどありえない。
祖父は、最近少し痴呆がでていた。
薬を買いに行くことは出来た。 しかし、飲む量がわからず、 1日に10回ほどに分けて、結局薬を全部飲んでしまったのだ。
祖母は自分が薬を飲むようにキツク言ったから 祖父を焦らせたから こんな結果になったのだと 遠い目をして言った。
違う違う違う。
違うよおばあちゃん。
「私だって、そうするよ 私がそこにいたら、薬を飲ませたよ」 フッと、祖母の焦点が私の顔に合う。
「…そう?」
「そうだよ 私が殺したみたいなもんだ…っていうのと 私が殺した…っていうのは 天と地ほどの差があるんだよ」
やっと祖母が笑う。
ねえ、おじいちゃん そうでしょう?
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