○プラシーヴォ○
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こんなに自分を嫌いになったのは初めてかもしれない。 聖水のプールに飛びこんで、 汚い心を溶かして無くしてしまいたかった。
映画をハム男と見に行った。
14時に終わったので、遅めの昼食をとろうと思っていたら、 ハム男が胸を押えて首をかしげる 「なんか・・・軽めのモノがいいな。気分が悪い」
ここ三ヶ月ほど、ハム男は体の調子がよくないらしく、 吐き気がおさまらなかったり、 首のリンパ線のあたりが痛だるい感じがするというのだ。
以前、デートの時にラーメンを食べていたら、 私にサイフを押し付けて ダッシュで店の外へ出ていったことがあった。
きっと、今何か食べたら、またハム男は吐いてしまうだろう。 イヤダ。イヤダ。マダ デートシタイヨ。
「ハム男の家に戻ろう。本当は何も食べたくないんでしょ? 家で休もう。私は途中で何か買うからさ」
心の声を両手で必死に防ぎながら、口からセリフを押し出した。 ハム男はすぐにうなずいた。 よっぽど調子が悪いのだろう。
最後に、本屋さんにだけ行きたいと言うので、 道をよくしらないハム男をひっぱって本屋へ行った。
途中、ハム男がおずおずと言った。 「がちゃ子・・・怒ってるの?」 「ナニが?」 「俺が・・・気分悪いって言ったから・・・」
そうだ。私は怒っていた。 せっかくのデートをお昼で終わらせなければならなかったことを 前から約束していた焼き鳥やさんにも行けないだろうということを デートの時はいつも私があれこれ決めなくてはいけないことを そして 気分が悪いというハム男に優しく出来ないことを
私は中途半端だ。
完璧に優しくできない。 私が気分を害してることを、不機嫌な顔でアピールして、 ハム男に優しくしてほしいのだ。 バカバカバカ!私のバカ!
自分への腹立たしさに、いっそう無口になる私を、 ハム男が心配そうに見つめる。
ハム男も怒ればいいじゃん。 こんな最低の彼女っていないよ。 ハム男のことを心配するどころか、 スケジュールが乱されたことに腹を立ててるんだよ! 何か言ってよお! 「がちゃ子、お腹すいたんだろ?俺、ソバが食べたいな。 がちゃ子の好きなあそこのソバ屋さんに行こう!」
ニコニコニコと、ハム男が笑う。 帰りにビデオも借りて帰ろうな、と付け加える。
ごめんねハム男。 きっと今、聖水の雨が降ったら、 私は溶けてなくなっちゃうよ。
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