2002年12月04日(水) |
椿山課長の七日間 浅田次郎 |
朝日新聞社 2002
STORY: ある日突然死んでしまった椿山課長。あの世へ行ったものの相応の事情があるということで七日間だけ(といっても残された時間は三日間ほど)この世へ帰ることを許される。その日に同じくこの世に帰ることが許された3人(人違いで殺されてしまった武田組長、本当の両親を知らない少年・雄太)が折に触れて絡み合いながらこの世でやり残したことを遂げようとするが・・・。
感想(ネタバレあり): すでに朝日新聞の夕刊に連載されていたのを読んでいたので内容は知っていた。この小説はその夕刊小説に加筆修正したものだそうで、若干自分の記憶とエピソードの順番が違っているような気がしたり、また最後のシーンがどうも新聞のときと違うような気がしたが、読んだのはずいぶん前なので自分の記憶に自信はない。
自分が生きている間、自分の周りのことというのはあまり見えていないのかもしれない。また、知らない方が幸せであることもあったりする。そして、人は色々な人生を歩んでいるわけで、世の中、全く悪いことをしなかった人というほうがマレなのではなかろうかとも思う。
この作品ではあの世に行ったら役所のようなところでそれぞれの罪による別々の講習を受け、反省というボタンを押せば極楽に行けるのである。ということは、たとえ自分が本当に悪いと思わなくてもボタンを押せば極楽に行けるということで、極楽に行けるのにわざわざボタンを押さない人の方が少ないと思う。
最後に武田を人違いで殺してしまった五郎がここにやって来る。彼は確かにろくな人生を歩んでは来なかったのであるが、それでもそんな彼にも極楽への道は続いていて待っていてくれる人がいるのである。そういうのを読んでいると、何をしても反省すればよいというのはひどいようでいて、その実、いいことでもある気もする。
しかし、逆に椿山の父は正義実直の人で普通なら極楽往生間違いなしの人なのだが、少年の代わりに地獄へ行く選択をする。結局実直でまともな人に限って最後までバカ正直に自分が汚れ役を引き受けるわけだ。このあたりがこの作品が普通のありきたりな小説ではないところのような気がする。
どんな人も自分の人生を最後まで全うするということ、それ自体が実は素晴らしいことなのだろうと思う。中に自殺をした人は別の処理になるというシーンがある。相応の事情がある人はその事情を考慮されるらしいが、そうでない場合はさらにつらい人生をもう一度やり直す措置が取られるという。どんなに厳しい人生、つらい人生でも、その人がその生を生き抜いたなら、罪も許されてしまうのかもしれない。確かに死人を悪く言う人はあまりいないし・・・。
という感じで、いろいろなことを思ったのだけれど、やっぱりこの話、とてもよくできているし、なぜか泣けてくる。愛とは何か・・・とか色々と考えさせられる。またそれが全然固くない文章で面白おかしく書かれているところが誰にとっても読みやすく受け入れられやすいのではなかろうか。お勧めの作品の一つである。
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