私の英語熱が頂点に達したのは高校一年生である英語の先生に出会ったときでした。 彼女は当時50歳。 見た目はふつうのおばさまです。 ところが彼女はあらゆる意味ですごい。とにかく授業がすごい。
週に3回のグラマーの時間、1時間で軽く教科書8ページは進みます。 演習形式で15人の生徒が次々に指名されます。予習をしないということなど決して許されません。 答えを言いよどんだり、間違えたりすると、ピシャーンと雷が落ちる。 突然教科書にない発展問題が口頭で出され、それに答えられないと、「あんたなんか、こんな問題もわからないのー!!そんなに勉強が嫌なら高校なんて辞めてしまいなさいよ!義務教育じゃないんだから、お金がもったいないよ!隣の人答えて!」
私なんか怖さのあまり授業中ずっとがたがた震えていました。
そして曲がったことが大嫌い。 時々、授業の始まりにおっしゃいます。 「予習をほかの人に見せてもらった人、立ちなさい!!」
それで、9割の生徒が立ち上がります。
「あんたたち、何て汚いの!人の予習した内容を写させてもらうなんて、知識の泥棒よ!汚らしい。教室の後ろで正座しなさい!!」
その時間は正座する9割も地獄。生き残った1割も地獄です。
まるでスポ根ドラマのような英語の授業です。
それでも、私は先生をとても尊敬していました。 それは先生についていけばハイレベルな英語を知ることができたというのもありましたがやはり高潔な人間性に憧れていたのだと思います。
クラスに吃音の子がいました。話すときにどもってしまうのです。 その先生に指名されたときなど緊張もピークですから、日頃よりもうまくしゃべれません。
「ア、ア、ア、ア、アイ ハ、ハ、ハブ・・・」という調子です。 でも、先生はそのことについて何ひとつ文句を言ったことはありませんでしたし、どんなに時間がかかっても、せかさずじっと言い終えるまで待ってくれました。 だから、みんなで「先生は厳しいけれど本当はやさしい人だよ。きっと」と励ましあってがんばりました。
結局最後の最後まで一度たりとも授業で先生の笑顔を見ることはありませんでしたが。
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